【短編小説】気づかぬ面影
今日も新聞がない。
前はすぐに読めたが、最近は新聞を待たねばならない。読む人が増えたのか?
ともあれ、本日のコーヒーを頼む。何であれ頼むのが密かな楽しみだ。
「今日はブラジルですよ」と孫娘のような店員さんが微笑む。
ブラジルか。家内と一度旅行した。イグアスの滝にすっかり圧倒されていた私の横で、よくぞ笑顔ではしゃいでいた。
あんなに無邪気で、勝ち気で、笑顔の絶えぬ君が、まさか私を置いて逝くなんてなあ。
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「新聞、どうぞ」
店員さんがわざわざ持ってきてくれた。
「最近、来る時間が少し早くなりましたね。早起きされてるんですか?」
はて?早くなった?
「いや、いつも同じ時間に家を出てるんだが…早くなりましたか?」
「以前は9時半頃でしたが、最近は9時15分頃と少し早いですよ」
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帰り道、謎が解けた。
以前は途中まで家内と歩き、私は喫茶店へ、家内は華道教室やら買い物やらへ出かけていた。
君の速度が、声が、笑顔が、とても恋しい。
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