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青春は苦いを実感する“学園もの” 『空棺の烏』 #505

阿部智里さんの「八咫烏シリーズ」のおもしろいところは、新しい巻を読む度、展開がガラリと変わってしまうことです。だから前の巻が手放せない。第4巻の『空棺の烏』を読み終えて、すぐにもう一度第3巻の『黄金の烏』を読み返してしまいました。

ここまでは主に宮廷の権力闘争のお話でしたが、『空棺の烏』は「学園もの」です。武官を養成する「勁草院」という全寮制の訓練所で、「金烏(きんう)」の側近である雪哉は厳しい訓練を受けることになります。はたして、その真意は!?

王朝が変わる時や、政権が委譲される時、要となるのは軍部なのだそうです。どれだけ高潔な思想を持っていたとしても、刃には勝てない。八咫烏界の長「金烏」に選ばれたものの、支持基盤のない奈月彦。腹心の部下である雪哉を軍人の卵たちが集まる場所へ送るのは、ある意味当然の戦略だったのかもしれません。

「勁草院」での出会いと友情は、後々の物語にも大きな影響を及ぼします。この、第4巻は、めっちゃ大事や……。

代々武家の家系である北家の次男坊として生まれた雪哉ですが、長男とは母が違いました。その長男を立てるため、彼はずっとマヌケのフリをして来たのですが、もうそんなことは言っていられない。雪哉の知力爆発!な展開になるのかと思いきや。

いかんせん、彼もまだ子どもだったのだなーと感じてしまう。「勁草院」で起きた数々の事件が、彼をどんどんと冷たい人間、いや、冷たい烏にしてしまうように見えるのです。実はそれも戦略なのかもしれないけど……。大人へと成長していく雪哉から目が離せません。

漫才コンビのような楽しい掛け合いも、状況の悪化と共に真剣勝負へと変わっていきます。

「金烏」の側近という背景を秘密にして挑んだ訓練学校の生活。実力主義のはずが、ここにもあった身分の差別。天才的な武術をみせる同級生たちの中で、小柄な雪哉に勝機はあるのか。ラストまで目が離せない展開ですよ。

戦略論の授業は、マンガの『キングダム』を思い出してしまいました。一方で、八咫烏の天敵・大猿と「金烏」の関係は、映画の「もののけ姫」を彷彿させます。

第1巻を読んだ時には、これだけ壮大な世界が広がると思ってなかった。「八咫烏シリーズ」は現在進行形で追いかけられる物語です。まだ読んだことがないという方がうらやましい。ぜひ1巻の『烏に単は似合わない』からどうぞ。

第2巻は『烏は主を選ばない』。

第3巻は『黄金の烏』。


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