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父子の葛藤を描く、韓国ドラマの原点 ドラマ「龍の涙」 #426

2000年代の中頃から使われるようになった「マウンティング」という言葉。思えば、あれはマウントされていたのかーと苦々しく思い出す出来事があります。でも、そのおかげで、朝鮮王朝の建国を描いた長ーいドラマを完走することができました。

「私の名前はキム・サムスン」が話題になっていた頃なので、2008年くらいでしょうか。先輩の強力な推しを受けて韓国ドラマを観るようになって、「イ・サン」という時代劇にはまっておりました。

「イ・サン」ってご存じですか? 食べ物の消化を助けるものではなく、お金持ちの親から受け取るものでもないですよ。

第22代朝鮮国王である「正祖」の、恋と政敵との争いを描いたドラマなんです。なんて話をしていたら、とある韓国エンタメ通の方から言われました。

「えー、『龍の涙』も観てないの? よくそれで通を気取れるねー」

(えー!!! ぜんぜん通ではないし、通を気取るつもりもないですねー!!!)

そんな心の叫びは、口には出せずじまいでした。それでも悔しい気持ちは残ったので、せっせとレンタルビデオ店に通って観たんです。

なんと。

全159話!

「龍の涙」は総製作費160億ウォン、出演人員7950人、5万人のエキストラを動員して制作された、韓国時代劇の金字塔と呼ばれるドラマです。

ドラマは朝鮮版“ルビコン川を渡る”シーンから始まります。高麗王から遼東征伐のために出兵した李成桂は、命令に背くことを決意。開城の王宮に向けて軍を戻すのです。

二度と引き返せない「川」を渡ってしまった李成桂こそ、初代朝鮮国王となる人物です。朝鮮王朝の建築にあたって、張り巡らされる戦略と復讐。王位を巡る家族間の愛と憎しみ。重厚で壮大な大河ドラマなので、話数が多いのも当然かもしれません。

観てよかったと思えた理由がふたつあります。ひとつは、王朝の歴史を知ることができたことです。

「龍の涙」で“ルビコン川を渡る”シーンは、李成桂の決断のように描かれていますが、「六龍が飛ぶ」では、息子の李芳遠と策士の鄭道伝にのせられたようになっています。もちろんドラマはフィクションなので、見せ方の違いはあり得ること。こういう違いを知ることができて、よかった。

そして、もうひとつの理由は、韓国ドラマに通底している「なぜ、これほどまでに父の支配から逃れようとするのか」を感じられるようになったからです。

ハングル創製を巡るミステリー「根の深い木」で、李成桂の孫であり、第4代国王の「世宗大王」は、父・李芳遠の強権政治のトラウマに苦しめられていました。ダークサイドに落ちまいとする姿は、まさに「スター・ウォーズ」!

圧倒的な強さで家族を支配する父権主義は、ドラマでも映画でも多く描かれてきました。財閥ものなら、法を曲げてでも子どもを優遇しようとする。企業ものなら、経営権の継承と恋なんかがありますね。また、正妻の子と妾腹の子との歴然たる差別もテーマになってきました。

そういった韓国ドラマに描かれる葛藤は、この「龍の涙」というドラマが最初に描いたのだそうです。これがフォーマットになって、後のドラマにつながっていったとのことでした。

韓国時代劇の中で、王の衣装として登場する「龍袍」。赤い上掛けに「五本爪の龍」が刺繍されています。

世宗大王星を追う者たち8

(画像は映画.comより)

すなわち、王=龍なんですよね。ドラマの終盤、そんな「龍」が涙する時がやってきます。

父の強さに憧れ、弱さに絶望し、認めてもらおうと必死に努力すればするほど、遠ざけられてしまう息子。これほどまでに悲しい親子がいるんだろうか。

「龍」の涙を目にした時。

思わずわたしもウルッときました。

たぶん、半分くらいは159話を走りきった「やったわ!」感だったんですけど。


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