キョンジュ

古都を舞台に描かれる“記憶”の物語 映画「慶州 ヒョンとユニ」 #187

映画を観ていて、演技にひきつけられることもあれば、脚本の妙に「あ!」と声が出てしまうこともありますし、映像美にため息がでることもありますよね。

韓国で“映像詩人”と呼ばれているチャン・リュル監督の映画「慶州 ヒョンとユニ」は、まさに映像から浮かび上がるイメージをみつめているような作品でした。

<あらすじ>
北京大学教授のチェ・ヒョンは、先輩の訃報の受けて大邱(テグ)を訪問。友人と、先輩の思い出や7年前に行った慶州旅行について話をするうちに、ひとり慶州へ行くことを決める。葬儀場から慶州へと向かったヒョンは、7年前に訪れた茶屋を探し出す。壁には春画が描かれていたはずだったが、茶屋の主人・ユニはそんなものはなかったと言い……。

主人公のヒョンを演じるパク・ヘイルは、「殺人の追憶」の容疑者役で一躍有名になった俳優です。「殺人の追憶」は、いま話題の映画「パラサイト 半地下の家族」でタッグを組んだ監督ポン・ジュノ×主演ソン・ガンホの作品。「殺人の追憶」でもそうでしたが、パク・ヘイルって無表情の奥にどんな感情を隠しているのか分からないので、細身でやわらかい存在なのに、なんとなく凄みがある。この映画でもジキルとハイドのように、昼と夜で印象が変わっていきました。

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※画像は映画.comより


日中は、
・子どもに冗談を言って笑う
・妻に言われた禁煙を守る
・友人が下ネタを言っても乗らない
と、誠実で知的な男性。

ところが慶州に行った後、後輩を呼び出したり、観光案内所の女の子と話したりする頃から、印象が変わっていきます。特に日が暮れ始め、茶屋の主人・ユニと親しく話せるようになってからは、

男は狼なのよ 気をつけなさい~♪

という歌が勝手に脳内で再生されちゃう。いや、その男、絶対あやしいって!

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※画像はKMDbより

この画像の場面でユニが淹れている「黄茶」は、通常の中国緑茶とは違う加熱処理を行った発酵茶です。酸化発酵することで茶葉と水色がうっすらとした黄色になるため「黄茶」と呼ばれているそう。中国茶の中でももっとも希少価値が高い高級茶なんです。

さすが北京暮らしの知的エリート、ヒョン。お茶好き女子の心をつかむオーダーの仕方!と、どんどんうがった見方をしてしまいました。

ヒョンに対しても、ユニに対しても、「なんかあやしい」気配が漂います。それは映画全体に漂う「死」の影のせいかもしれません。映画自体、先輩のお葬式から始まりますし、古都である慶州は「古墳を見ずには暮らせない」街です。

3年ほど前に、慶州を旅したことがあります。駅前に古墳があり、街の中に古墳があり、野っ原にも古墳があり。映画の通りの街です。笑

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ヒョンと同じように駅前で自転車をレンタルして散策。

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善徳女王の陵にも行きました。

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ユニの店「アリソル」は実際にあるお茶屋で撮影したそう。慶州駅から少し離れた所にあったそうなのですが、映画公開後に「聖地巡礼」するファンが増えたため、駅の近くに引っ越したとのこと。行ってみたかった!

こちらのニュースサイトに写真がたくさん載っています。雰囲気は分かるかも。

慶州は街全体がおっとりとしていることもありますが、時間が止まっているようにも感じられます。そんな街で描かれる「死」と「記憶」の物語。“映像詩人”と呼ばれるだけあって、長回しのカットで切り取られる人物と風景は、思わず見入ってしまう。

ヒョンがこだわり続けた春画のナゾに気づいた時、「あ!」となりますよ。


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