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科学者作家の先進性が生む新鮮なアイデア 『ボッコちゃん』 #387

日本における「ショートショートの神様」と呼ばれたのが星新一です。化学の修士号を持ったSF作家であり、1000編を超える小説を残しました。

わたしが星新一の名前を知ったのは、たしか小学生の頃でした。新井素子さんの本のあとがきに「科学者作家の星さんに比して、あたしは科学なんて分かんないもーん」という流れでお名前が出てきたと記憶しています。

第1回奇想天外SF新人賞に応募した新井素子さんの『あたしの中の……』を強力にプッシュしたのが星さん。新井さんのデビューのきっかけを作った人物でもあるのです。

どんな人なんだろうと思って図書館で本を探し、毎日のように読み漁っていました。いま自宅にある新潮文庫の本は夫のでぶりんのもので、昭和48年の本。なんとお値段「160円」です。現在流通している本は「693円」のようなので、47年でなんと4倍以上になってるんですね。

この新潮文庫のシリーズは、解説が豪華なことも特徴です。星さんの自選による50編が収められた『ボッコちゃん』の解説は筒井康隆。他にも、谷川俊太郎、中島梓ら、そうそうたるお名前が並んでいます。

ショートショートを成立させる三要素「新鮮なアイデア、完全なプロット、意外な結末」を作り出してきた星新一。いま読むと、反原発で反権力な印象を受けました。また、人間不信と同時に人間愛も感じます。こちらは実家の会社が倒産した際、社長として整理業務にあたった時のつらさから来ているのかもしれません。

あまりにも数が多くてタイトルが分からなくなってしまったのですけれど、とても印象に残っている小説があります。

町のとても目立つところに、ボタンが設置されています。夕方、ひとりの男がフラフラとやって来てボタンに手をかけるのですが、通りすがりの人に「本当にいいのですか?」と諭されて終わる、というお話。ボタンは地球上にあるすべての核兵器の発射装置につながっていたのです。

あとは、味のする装置のお話も覚えてる。

「コーヒーが飲みたい」と思えば、口の中にコーヒーの味が広がり、「アレ食べたい」と思えば、その味が広がるという機械を装着している人間たち。ある日、コントロールセンターが故障し、なんの味もしなくなってしまったためパニックが広がる、というお話。

現代を彷彿させますよね。作品を貫く先進性とストイックさ。一方で酒席では超ひょうきん者だったのだそうです。筒井康隆も、初期の頃は星新一のダジャレにお世話になったとのこと。エヌ氏の無表情に微笑む姿がちらついちゃうな。

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