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言葉では語られない心の機微を読む 『蒼龍』 #201
時代小説を読んでいると強く感じることがあります。
なんでこんなに説明しないんだろう。
商いが舞台なら主人と奉公人、武家のお話なら殿さまと家来、それ以外にも長屋のまとめ役、お隣さんなど、小説の中ではさまざまな人たちとの交流が描かれますが、「行動の理由」を言葉で説明しない登場人物が多いんですよね。
物語の最後になって「あぁ、そういうことだったのか」と感じるものもありますが、想像するしかないものもあります。「慮る」能力は、時代小説の方が鍛えられるのかもしれない。
山本一力さんのデビュー作『蒼龍』には短編5編が納められていて、どれもお互いを「慮る」お話で、胸にグッときます。
表題作の「蒼龍」で、山本さんはオール読物新人賞を受賞。遅咲きの新人として挑戦し続けた甲斐あって、作家としての道を歩むことになります。
収録されているのはこちらの5編。
・のぼりうなぎ
・節分かれ(ふしわかれ)
・菜の花かんざし
・長い串
・蒼龍
文学賞に応募し続けていたご自身をモデルにした「蒼龍」は、貧乏ならひとに負けない、というくらいの借金を背負う弦とおしの夫婦の物語です。
サイコロ博打で大金を失ったところに、店のお金を横領して行方をくらませた兄の借金まで背負うことになり、つんだ……という状態。その時、目にしたのが湯飲み茶碗のデザインコンテストの貼り紙。大金の賞金付き!
もーこれに賭けるしかないでしょ!!
と、家族一丸となって挑戦するストーリー。収録されている5編の掲載年月が見当たらないのですが、おそらくこの1冊の中で新しい→古い順になっているのだと思います。「蒼龍」は最後だし。そんな本の特徴をひと言で言うと。
成長の過程が見えるんです!
いや、お前、何様やねん!?と書いていて思うけど。笑 「蒼龍」はデビュー作とあってかなり荒削りな小説です。その青さが勢いになって一気に読ませてくれるのですが、小説の出来という点で他の短編と比べると、その差は歴然としています。
文学賞に応募しまくり、最終選考で落ちてばかり。その悔しさから一気に書き上げた「蒼龍」と、読んで意見してくれる編集者さんと共に作り上げた短編。肩の力を抜くってこういうことか。ひとりの作家がこうして磨かれていくのかーと感じます。
言葉では説明されないけど、そしてたぶんそれを意図した編集ではないのだと思うけど。あきらめないこと。書き続けること。その先に見えた世界に、ウルッとしてしまうのです。
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