分かり方

“伝える”をあきらめない『新しい分かり方』 #241

自分にはとてもできそうにないことをやっている人を見ると、無条件に応援したくなります。

たとえば、水泳競技のひとつである高飛び込み。高いところが苦手で歩道橋も歩くことができません。なので、自分では絶対ムリ!なんですが、ヒラリと飛ぶ姿には憧れます。集中力が高まった表情、ピンと伸ばした指先、全身に緊張感がみなぎっていて、なのにとてもしなやかに飛ぶ姿。かっこいい。

あとは物理学を理解できる人。ティッシュもスプーンも同じ速度で落ちるという説明が、まったく理解できずに途中で寝てしまったことがありました。「重い物も軽い物も、空気抵抗がなければ同じ速度で落ちる」という法則があるそうなんですが、なんじゃそれ?です。

物理の法則を理解できると、こんなことができるんだなーと思って、楽しみにしているのがNHK教育テレビの「ピタゴラスイッチ」です。

上のリンク先にある動画のように、「大きい玉が主役かと思ったら、小さい玉がメインなのか!」と想像を裏切る動きをしてくれるところも好き。

Amazon Prime Videoに「NHKオンデマンド」チャンネルができたんですが、「ピタゴラスイッチ」が入ってなーい!! ぜひ追加してほしい。

まったく理解できなかった物理の授業を、もっとマジメにやっとけばよかった。そしたら自分でも作れたかもしれないのに。そんな思いにさせてくれた「ピタゴラスイッチ」。手がけているのが佐藤雅彦さんです。CMプランナーとして湖池屋の「スコーン」、「ポリンキー」などを制作、作詞とプロデュースを担当した「だんご3兄弟」は社会現象になるほどの大ヒット。

常に新しい「分かる」を模索しているという佐藤さんの本が『新しい分かり方』です。

前半は目の錯覚や思い違いに「んん?」となるイメージの写真集、後半にその解説が載っています。

「同じ情報、違う価値」の章で紹介されているのは、気象予報士の「“いい天気になります”はNGワード」という話です。晴天=いい天気でうれしいと思いがちですが、農作業をしている人にとっては雨だって必要なもの。ひとつの事象も立場によって受け取り方が違うからです。

わたしたちが何かを発信する際、受け手に自分と同じ解釈基準を期待していないかという指摘にハッとしました。

【コミュニケーション】の定義は、
情報を移動させることによって、意味の共有を図ること。

コミュニケーションをこう定義する佐藤さん。受け手が別の基準を持っている可能性を一枚の絵で示したのがこちらです。

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人間の子どもは笑顔で絵本を読んでいますが、鬼は涙しています。クイズの答えは「ももたろう」です。

同様に、立場の違いを逆転させたコピーが、2014年に新聞広告クリエーティブコンテストを受賞しています。

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(※画像はアドタイより)


佐藤さんは学生時代、解剖学の先生にスカウトされたそうです。そこで見た戦争経験者の遺体の話が、後に「象嵌」という手法につながっていく。

個人的な経験がクリエイティブを生み出すのです。

第92回アカデミー賞で監督賞を受賞したポン・ジュノ監督は、スピーチでこんな話を紹介しています。

「一番個人的なことが一番クリエイティブなことだ」という言葉を本で読みました。これは、偉大なるマーティン・スコセッシ監督の言葉です。

最も個人的な経験、感動、想いを掘り下げることこそ、アイディアであり、「伝える」につながっていくのだと思います。

新しい「分かる」の追求は、「伝える」をあきらめないこと、なんですね。

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