芸術とバズ営業の行方 映画「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」 #222
「事件は現場で起きてるんだっ!」
映画「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」を観て、むかしの映画の名台詞をふと思い出してしまいました。映画は現場も現場、翻訳現場をめぐるミステリーです。
基になったのは、ダン・ブラウンの長編推理小説ラングドン・シリーズの4作目の『インフェルノ』が出版された時、11人の翻訳者がミラノの出版社の地下に半監禁状態で作業させられていたというニュースだそうです。
ラングドン・シリーズの中でも『ダ・ヴィンチ・コード』は日本での単行本・文庫本の合計発行部数が1000万部を超えているそう。ただしこれはシリーズの2作目です。秘密結社イルミナティを描いた1作目の『天使と悪魔』は日本人になじみがないため、先に『ダ・ヴィンチ・コード』を出版することになったのだとか。
これが世界的な大ヒットとなり、『天使と悪魔』、『ロスト・シンボル』、『インフェルノ』、『オリジン』へ、そしてそれぞれの作品の映画化へと続いていきます。
ベストセラーが生まれれば、出版社もウハウハ。さらなる話題を重ねて出版を盛り上げたくなる。けれど、ファンの立場としては文学の芸術性を守ってほしいし、翻訳家なら人間として扱われたい。それぞれの葛藤がぶつかり合う映画です。
<あらすじ>
フランスの人里離れた村にある洋館に集められたのは、9人の翻訳家。全世界待望のミステリー小説「デダリュス」完結編の各国同時発売を目指し、毎日20ページずつ渡される原稿を翻訳することになる。ネットもつながらない地下の図書室に閉じこめられた翻訳家たち。小説のストーリーを知っているのは作者と彼らだけのはずだったのに、「冒頭10ページをネットに公開した」という脅迫状が出版社社長のもとに届き……。
フランス語で書かれた小説を翻訳するために集められたのは、英語・ドイツ語・デンマーク語・ポルトガル語・ギリシャ語・イタリア語・スペイン語・ロシア語・中国語の翻訳家です。
携帯電話を取り上げられ、半監禁状態に置かれることを出版社の社長から知らされ反発しますが、相手は銃を持って武装した警備員。
(※画像は映画.comより)
ガチやな。
翻訳家たちは一緒に過ごすうちに打ち解けて、クリスマスパーティを楽しんだりもするようになるのですが。ギリシャ人に「借金を返さないしー」と言ってみたり、イタリア人とスペイン人を間違えたり、ヨーロッパの国々の微妙な力関係も垣間見えます。
(※画像は映画.comより)
そんな時に出版社の社長の下に脅迫メールが届き、お互いに疑心暗鬼に陥る。
脅迫については、わりと早い段階で犯人が明らかになるのですが、実は自分がみていたものが「だまし絵」だったと気づいて、そこからどんどんどんでん返しがグルングルンとひっくり返っていきます。
だまされます。
そして、翻訳家というのは自分の担当言語以外の言語も知っているものなんだな、とか、専業では食べていけないんだな、とか、翻訳業界の裏側もちょっとのぞけます。
この映画のパンフレットがこちらなんですが。
ビル・エヴァンスとジム・ホールのアルバム「アンダーカレント」まんまなんですよね。友人を失い、絶望の底にあったビルが奏でるピアノの旋律が悲しくもすばらしい傑作。
アルバムの制作背景は、映画ともつながっていきます。
ロシア語翻訳家の女性がずっと白いワンピースを着ていて、名前も「レベッカ」と、ヒッチコックへのオマージュもあり、マルセル・プルーストの長編小説『失われた時を求めて』へのちょっとブラックな皮肉もあり。
出版社も営利企業なのでお金儲けは必要です。お金儲けと芸術は、両立するものなのか。
ちょっとせつないラストが心に残ります。
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