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SFのせつなさと、あざとさと、どんでん返しを堪能 『ZOO 1』 #392

「SFって、物語をつくる上での決まりを考えなくてもいいというか、あざとくて当たり前というか、展開がころころ変わっても、どんでん返しがあってもいい。自由に発想できるじゃないですか」

小説家・乙一さんの原作を映画化した際、脚本・絵コンテ・キャラクターデザインを担当したマンガ家の古屋兎丸さんは、こう言って「SFは乙一さんに向いている」と勧めています。

SFってあざといのか。笑

でも、乙一さんの既成概念に縛られない、当たり前をヒョイと飛び越えてしまう世界は、たしかにSFに向いているのかもしれません。

冒頭の対談は、オムニバス映画「ZOO」の公開を記念しておこなわれたもので、『ZOO 1』の文庫本巻末に収録されています。

映画の方は未見ですが、小説の雰囲気がでているジャケットだなーと思います。

金田龍が監督した〈カザリとヨーコ〉は、一卵性双生児の姉妹のお話です。双子だというのに、お母さんはなぜか妹のカザリばかりかわいがり、ヨーコのクビを締めて「殺してやる」なんて言ったりしてます。

家を出て、知り合いになったおばあちゃんのところへ行く決心をしたヨーコ。おばあちゃんの家の鍵を取り返そうとこっそり母の部屋に忍び込んだ際、カザリがやって来て母のパソコンにお水をぶちまけてしまうのです。

ヨーコがやったことにしようと工作して部屋を出るカザリ。今度こそ殺されてしまうとおびえるヨーコ。さて、母の反応は?というストーリーなのですが。

コワイよー!!!

しかなかった。カザリの発想も、母の反応も、すべてが常識を越えていてコワイ。映画では小林涼子・松田美由紀・吉行和子が演じているそう。松田美由紀の美しく壊れた感じは、この母にイメージピッタリかも。

乙一さんの短編の中で、わたしが一番好きな物語が〈陽だまりの詩〉でした。〈ひだまりのし〉と読みます。映画ではこれだけCGアニメで制作されています。世界にふたりだけで暮らす、少女と男の物語なのですが。

「きみを作った人間だ」

男はそう言って、お前は自分を「埋葬する」ために存在するのだと説明。身の回りの世話をしながら、少女はコーヒーの味を覚え、掃除の仕方を知り、畑を荒らす兎を追いかけ、「死」を理解しようと努力する。

ほのぼのと温かいふたりの暮らしですが、やがて男の秘密に気がつき……というストーリー。

泣く!!!

しかなかった。男の孤独も、少女の絶望も、すべてが悲しくせつない。すべてが分かってから、もう一度読み返すと、少女が目を開けるシーンは、『フランケンシュタイン』そのもの。見ているもの、感じ方、すべてが計算されているんですよね。

うわ! 乙一さんすごい!と感じた、振り幅の大きい短編が5編収められています。SFのあざとさ?と、どんでん返しを堪能できる一冊です。

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