カラスたちの恋はせつない色でいっぱい 『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』 #508
「女」という性は、八咫烏の世界でも便利に使い捨てられてしまうのか。
6巻編成の第一部が完結し、「八咫烏シリーズ」の新作として出版されたのは「外伝」。『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』は、本編には描かれなかった主な登場人物たちの、生い立ちや関係性が明らかになる短編集です。
特に好きだったのが「まつばちりて」。
第1巻は八咫烏たちの長である「金烏(きんう)」のお妃選びがおこなわれたのですが、そこに集められた女たちの背景が描かれています。「女」という性に、むなしさとやるせなさと心細さを感じてしまったのでした。
「百花」のタイトル通り、十“烏”十色の恋模様のお話です。かなわぬ想い、愛を守るための嘘、命をかけた恋。せつない色満載です。
八咫烏たちは、人間界とは隔絶された山の中「山内(やまうち)」で暮らしています。実は現代の日本社会と地続きであることが分かってくるのですが。政争や外敵との戦いなど、本編ではどうしても男が主人公となるストーリーなんですよね。
でも、スピンオフの短編集で描かれるのは、女たちの壮絶な覚悟です。「大奥」や「チャングムの誓い」など、宮廷ものには不条理な掟がつきもの。八咫烏の世界だって同じです。
「ふゆきにおもう」は、ぼんくら次男と呼ばれ、マヌケのフリをして生きてきた雪哉の、二人の母のお話。実母冬木と、義理の母となった梓との交流にしんみりしました。なぜこんなにも雪哉が周りを見るようになったのかも、ちょっと分かるかも。
実はシリーズの中で一番好きな一冊でもあるのですが、これだけ読むよりも、本編を読んでからの方が味わえる世界だと思います。
第2部の第1巻『楽園の烏』が、去る9月に発売されました。こちらは第6巻の数年後(数十年後?)の世界です。
第1部の順番はこちら。
1:『烏に単は似合わない』
2:『烏は主を選ばない』
3:『黄金の烏』
4:『空棺の烏』
5:『玉依姫』
6:『弥栄の烏』
7:『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』
戦略論、リーダー論としても読める小説なので、大人も読めるファンタジーです。おまけに、異世界が舞台なので、理解できないものや、よく分からないものを受け入れられるかどうかというポテンシャルを試されるわけです。これこそ「ダイバーシティ」だと思う。
意識高そうな理屈を書いてみましたが、ひと言でいうと「おすすめ!」ってことです。
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