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ゾンビになってない? 映画「デッド・ドント・ダイ」 #376

わたし、生きてるのかな?

家から出ない生活をしていて感じるのは、世界が狭くなってしまうことです。通勤がないため、季節を感じさせる風景を目にすることもない。意外な出来事にも遭遇しない。

最近、心が動いていないのでは。

そんな不安を感じていました。とはいえ、街中を歩くと、スマホを見ながらヨタヨタしている人にぶつかりそうになって焦ります。たまに電車に乗ったとしても、スマホの画面を見つめる頭が並んでいて怖くなる。

ジム・ジャームッシュ監督は、そんな人々をゾンビにたとえています。

ゾンビというのは、お互いへの思いやりや意識を失うことへのメタファーだ。

ジム・ジャームッシュ監督の最新作「デッド・ドント・ダイ」は、田舎町の人々がどんどんゾンビ化してしまうお話でした。ゾンビとなった後の方が、生前好きだったものに対して素直という、ブラックユーモア満載の映画です。

<あらすじ>
アメリカの田舎町センターヴィルにある警察署に勤務するロバートソン署長とピーターソン巡査、モリソン巡査は、他愛のない住人のトラブルの対応に日々追われていた。しかし、ダイナーで起こった変死事件から事態は一変。墓場から死者が次々とよみがえり、ゾンビが町にあふれかえってしまう。3人は日本刀を片手に救世主のごとく現れた葬儀屋のゼルダとともにゾンビたちと対峙していくが……。

ロバートソン署長を演じるのはビル・マーレイ。「ゴーストバスターズ」などでみせたひょうきんさはすっかり丸くなったような。この映画では管理職のおじさんとして、さまざまなことに意識と配慮を巡らせています。

ピーターソン巡査役は、アダム・ドライバー。「パターソン」に続いてのジャームッシュ映画です。知り合いがどんどんゾンビとなっていく事態に、相変わらずオロオロオタオタしていました。

彼の車のミラーには、とある映画のキャラクターが付いています。「外国から移住してきた葬儀屋さん」という役のティルダ・スウィントンがツッコむんですよ。

「あら、『スター・ウォーズ』なのね」

シレッと交わされる会話にユーモアが散りばめられていて、何度も声を出して笑ってしまいました。

そのティルダ・スウィントン。ポン・ジュノ監督をして「女ソン・ガンホ」と言わしめたほどの怪物。この映画では、監督にどんな職業がいいか聞かれて「葬儀屋」と答えたのだそう。

なんでや……。

おまけに居合術の達人という設定。

デッド2

ゾンビが増殖してアワアワしているロバートソン署長とピーターソン巡査に冷静に指示を出すティルダ・スウィントン。でも実は彼女は……という展開が、いい感じに訳が分からない!

わたしは怖い映画が苦手なので、ゾンビ映画もあまり観たことがありませんでした。なのに、昨年夏に公開された韓国映画の「感染家族」のコラムを書いたんです。そのためにいくつかゾンビ映画を観て、すっかり好きになってしまいました。

上のコラムにも書いたのですが、ゾンビ映画は構造上、
・ゾンビを追いやる
・人間が逃げ切る
このどちらかのエンディングにならざるを得ません。

「デッド・ドント・ダイ」の結末は、わたしには皮肉な悲劇に思えたのですよね。タイトルどおり、世の中は「死んだけど死んでない」のかもしれないという気がして。

でも監督は、「この映画を悲観的だと受けとってほしくはない」と語っています。

だからまずは、心を動かそうと思いました。ちゃんと生きていると感じるために。


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