想像力のない人の取り扱い説明書 『私たちにはことばが必要だ』 #245
初めて会社員として勤めた会社には、労働組合がありました。新人研修の最終日は組合の研修。労働者の「権利」として伝えられた各種制度の中には「生理休暇」も入っていました。生理痛がつらい時は休みましょうね、という話だったのですが。
「申告のために、毎月手帳を提出してね」
と、生理手帳を渡されました。毎月の生理日と休暇をとった日を記入して、組合の婦人部の先輩に渡すのです。
(それってどうよ……)
わたしは月経周期が長いので、ひと月単位で記入すると書くことがない月が出てきます。正直にそのまま提出すると、
「なぜ?」
と言われてしまったので、それ以降は「生理があったこと」にして提出しました。すると、実際の生理と合わなくなって、結果的に休みたかった日に休暇がとれないという本末転倒な事態に。
「なぜ休まなかったの? この権利はどれだけの運動の結果、与えられたものなのかちゃんと分かってる?」
(“与えられたもの”って言ってる時点でどうよ……)
そんな言葉を飲み込んで、手帳のためにあれこれ計算してやりくりする時間はめんどくさいに尽きました。
決してフェミニストとはいえないわたしですが、それなりに山ほどの嫌な思い、つらい思いを経験したから、も少し生きやすくなればいいなとは思っています。
そのためには強い言葉が必要なのか。粘り強く、辛抱強く対話し続けるのがいいのか。
大きな社会課題ほど、自分ごととしては届きにくい。1億人を動かす言葉について考える対談記事がありました。
この記事で語られるのは環境問題やSDGsと消費についてですが、フェミニズムについても同じかも、と感じます。
強い言葉も、辛抱強くも、どっちもイヤなんですよね、わたしは。
分かり合えない相手とは話さないことを選ぶ権利がある!と語るのは、イ・ミンギョンさんです。
2016年にソウルで発生した「江南通り魔事件」への怒りをもとに、クラウドファンディングを利用して資金と協力者を集め、『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』を完成させました。
「江南通り魔事件」とは、ソウルの高級ショッピング街である江南(カンナム)駅近くのトイレで、当時23歳の女性が面識のない男性に殺されたという事件です。
逮捕された男が「女性を狙った」と語ったことから、女性は恐怖を、男性は一方的に怖がられることに対する反発をと、お互いにお互いを攻撃する事態に発展しました。
日本でも翻訳される小説が増えている韓国文学は、家父長制や母娘の関係を見つめ直すフェミニズム作品が人気だそうです。わたしも『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んだ時は、「これは、わたしの物語だ」と感じました。
『82年生まれ、キム・ジヨン』の映画化にあたっては、主演女優がネットで誹謗中傷のターゲットにされるなど、作品以外のところで話題に。そんな状況の中で書かれた『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』は、「想像力のない人の取り扱い説明書」といえます。
・自分は女性差別と無関係だと考える人
・差別を受けた経験を否定しようとする人
こういう人は、今すぐこの本を閉じてください。聞く耳を持たない人に取り合う必要はありません。
「はじめに」で、気持ちいいくらいにスッパリと立場を伝えています。基礎編の「スタンスをはっきりさせよう」から、実践編の「ダメ出しの方法」まで、こう言われたら、こう返そうが実例として載っています。
まずは「私のスタンス」をはっきりさせること。
・それだけの理由があったんだよ。
・そういう男ばっかりじゃないだろ。
・いまや女が弱者でもあるまいし……
うっかり「そうかも」と思ってしまいそうな言葉に対して、自分はどう考えるのか。そのスタンスを決めること。そして、疲れる会話を続けるかどうかを選択する権利は“わたし”にあること。その2点が繰り返し語られています。
話を聞いて共感してくれる男性がいると、「エライねー」と思わず言ってしまいますが、「差別があることを理解した」だけで「エライ」とはどういうことやねんという鋭いツッコミもあります。
なんとなく、いつの間にか、女性は従属的なものにされている社会もイヤですが、だからといって立場を逆転させて男を下に見たいわけでもない。まだまだフワフワとした自分の意識を再確認できた本でした。
先日、とある仕事のチームで食事に行きました。大皿中華だったので、小皿と取り分け用の大きなスプーンとお箸が出てくるのですが。
なぜ、わたしに渡すの?
男性4人+女性2人がいると、当然のように「取り分け」は女性の係になる。あの時、モヤっとしていたのに言えばよかった。でも、言うとカドが立つしな。そう感じていたことを思い出しました。おだやかだけど、きっぱりしていたい。
どちらがよかったのか、今でも迷っています。
相手への想像力って、指摘されないと気がつかないことも多いと思います。わたしは強い言葉も、辛抱強くも、好きではない。でも、気づかないふり、見ないふりもしたくない。
だからもっと。
「ことばが必要」なのです。
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