うつけとマヌケの名コンビ誕生 『烏は主を選ばない』 #503
会社員生活をうまく乗りこなすには、どの「綱」を握るか見極めることが大切といわれてきました。『課長 島耕作』にもそんなシーンがありましたね。
わたしは長くフリーで仕事をしていたので、「どの綱」も「あの綱」もなかった……。そしていま勤めている会社には、いわゆる「派閥」というものがないので、正直あんまりピンと来ません。
いまでもそんなことやってる会社ってあるのだろうか……と思ったら。『半沢直樹』には凄惨な派閥争いが描かれていて、驚きました。
八咫烏の一族が支配する異世界「山内」では、世継ぎである「金烏(きんう)」に若宮の奈月彦が選ばれたため、お妃選びにかこつけた派閥争いが勃発します。
意のままになる「金烏」を求める者たちにとっては、お家の存亡がかかった一大事。ヒラの者たちにとっては、どの「綱」を握るかの一大事。奈月彦の側仕えとなった少年・雪哉も争いに巻き込まれていきます。
八咫烏シリーズ第2巻の『烏は主を選ばない』は、そんな兄宮派と若宮派に分裂した朝廷が舞台です。
前作『烏に単は似合わない』で、お妃選びが行われているにもかかわらず、当事者の奈月彦は、なかなか宮廷に姿を見せませんでした。こちらは候補となった4人の女性目線で書かれた小説。さて、その裏側で、奈月彦は何をしていたのか、というのが『烏は主を選ばない』です。
優秀な兄宮が廃嫡され、うつけと呼ばれる弟の若宮が「日嗣の御子」の座に就いたことで、朝廷がザワザワしている時期。奈月彦は、口は悪いし、礼儀もなっていないけれど、目端の利く少年だった雪哉を側仕えに抜擢。おかげで雪哉は命の危険にもさらされてしまいます。
雪哉は、代々武人としてならした北家の出身です。なのに、「ぼんくら次男」と呼ばれるほどのマヌケでした。でも裏にはせつない事情がありました。雪哉だけ母親が違うため、実はめちゃくちゃ周りを見ていたことが分かってきます。
第2巻は、とにかく奈月彦と雪哉の会話がおもしろいです。ふたりは、主人と側仕えという関係ではありますが、雪哉にはまだ「忠誠心」が感じられません。奈月彦の無茶な提案に、「馬鹿か、あんた」とツッコむほど。それが少しずつ大人になり、主人にとっての「幸せ」とは何かを考え始めるのです。
だからこそ。最後のセリフにグッときてしまいます。
「八咫烏シリーズ」は戦略論やリーダー論に興味がある方にもおすすめの小説です。第1巻の『烏に単は似合わない』と、どちらを先に読んでも大丈夫ですよ。
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