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村祭りに秘められた伝統の残酷さ 『玉依姫』 #506

『古事記』や『日本書紀』などの日本神話には多くの女神が登場します。その中のひとり「玉依姫」は、神武天皇の母として知られる神さま。この名前を持つ者は神と通婚する、巫女的神性を持つとされるそうです。

「八咫烏シリーズ」第5巻のタイトルは、そんな女神の名『玉依姫』。舞台は八咫烏の一族が支配する異世界「山内」を離れ、現代の人間世界です。

両親を交通事故で失い、祖母と暮らす高校生の志帆。母の出身地である山内村へと向かうバスを降りたとたん、見知らぬ少年から「帰れ」と言われてしまいます。そして村祭りの晩、恐ろしい儀式に巻き込まれてしまい……というストーリーです。

村祭りの由縁がまたそれっぽいんですよね。

村にある沼には龍がいると伝えられていたので、村人たちは魚を獲った時にはお礼をしていました。でも龍の正体は荒山の山神さま。こちらへのお礼を怠ったため、村は飢饉に襲われます。その時、ひとりの村娘が「わたしが身を捧げてお願いしてみます」と沼へと身を投げた、と伝わっている。村祭りは山神さまをお迎えするのと同時に、村娘に感謝を捧げるものとのこと。

祭りの日は年に一度だけ、神さまと人間が交流できる日になっているのです。

そんな特別なお祭りを見にやって来た志帆は、村人たちが自分に「期待」していることに気づく。一方、八咫烏の暮らす「山内」でも異変が起きていて、話がつながっていきます。

これまでのシリーズとは一気に景色が変わるので、最初は「ん?」ととまどいました。でもこの巻でようやく、八咫烏界とその天敵・大猿との関係が明らかになります。そして、「真の金烏(きんう)」であるはずの奈月彦に足りないものも。

第1巻こそ「お妃選び」という女性が主人公の物語でしたが、そこにあまり「母性」や「女性性」は感じられませんでした。「選ばれる立場」という弱みを、権力闘争に利用されてはいるけれど、そしてそれ故の切なさはたっぷりなのだけれど、ジメッとしていない。

ところがこの『玉依姫』では、「母性」がテーマとなっています。

禁足地の奥にいたもの。ソレが求めていることと、志帆にできること。ただの高校生が負わされるには、重すぎる荷物。どうしようもなく追い込まれてしまう状況ではありますが、それでも、選択は志帆の手の中にあったはずなのに。「女性」であることのどうしようもなさを感じて、ちょっとつらくなる一冊でもありました。

「八咫烏シリーズ」第一部は、次の第6巻で完結します。ラストの一歩前でのこの展開。うわー!!!ってなりました。



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