「好きなもの」について
「好きなもの」について考えている。
このテーマで書くのはこの一年で2回目。わたし自身、社内の勉強会で課題にしたことがあるし、演劇のワークショップでも「好きなものについて」語ったことがあった。
「好きなもの」について語れば、ポジティブな気分でたくさんの言葉を紡ぐことができる……ようだ。
でも、わたしは「好きなもの」について語ることが苦手だ。
理由は「ストレートだけでは芸がない」と教わったことが大きいのだと思う。
先日、映画のコラムを書くにあたって「中島みゆき」のことを調べていた時のことだ。なつかしいものを掘り当てて、思い出にひたっていた。
その時、「好きなもの」について、素直に語れなくなった原因らしき出来事を思い出した。
たぶん、小学生の時だったと思う。
同じくみゆきさんファンの友人と深夜ラジオの話をしていた。途中で眠ってしまったわたしに、テープ録音した友人が話の続きを聞かせてくれていたのだ。
そこへやってきた別の友人が言った。
「きもっ!」
これは、中島みゆきという決してメジャーではない歌手に対しての言葉なのか、当時うたっていたドロドロ失恋ソングのことなのか、深夜ラジオを録音して聞くことが珍しかったのか、友人の盛り上がり方が異様で引いてしまっただけなのか、自分には分からない話題で悔しかったのか、今でも分からない。
あれ以降、わたしは人前で自分の「好き」を語ることはなくなった。
ボキャブラリーの少ない子どもが発した言葉に、そんなに過敏に反応するなんて、と今なら思う。
でも、好きを語ることは、勇気がいるのだと子供心に刻まれてしまったのだ。
この呪縛は、いつか解けるだろうか。
みゆきさんの歌に「風にならないか」という曲がある。
むずかしい言葉は 自分を守ったかい
振り回す刃は 自分を守ったかい
自分が発する言葉が、相手にどう受け止められるかは一度想像しておきたい。言葉が軽く扱われる時代になったような気がするから、よけいに。
もっと気楽に好きについて語れるようになりたいと思う。ただ、わたしの「好きなもの」に共感してくれる人は少数派であることにも気づいた。
あまりにも細かい好きポイントに、伝わらないもどかしさがある。
だから、課題が仕上がらずに困っている、という言い訳なのだけど。
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