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女性を巡る“労働環境”はよくなったのか? 『「女性活躍」に翻弄される人びと』 #609

「活躍」なんてしたいと思ってない。

そんな言葉を口にしようものなら、総スカンを食ってしまいそうな昨今。鳴り物入りで始まった「女性活躍」は、為政者側の本音がボロボロ透けて見えて、なかなかおもしろい事態に発展している気がします。

でも、活躍を求められている側はというと、笑っている場合なんかじゃない。

奥田祥子さんによる『「女性活躍」に翻弄される人びと』は、働く女性を定点観測したルポルタージュの本です。キャリア志向の人、主婦願望の人、出産後に退職した人などなど、こんなにも苦しんでいる人がいたのかと驚きました。

1986年、「男女雇用機会均等法」が施行され、2016年4月には「女性活躍推進法」が施行されました。女性管理職の数値目標などを盛り込んだ行動計画の策定・公表を義務づけた法律です。

では、女性を巡る「労働環境」はよくなったのか。

昭和の時代は「専業主婦」が憧れだったのに、いまは価値観が逆転して「働いて、子育てして、妻の役割も果たす」女性が称賛されています。

(そんなスーパーミラクルな人、どこにおるのや……)と思ってしまいますが、メディアが伝える女性像の変化に、アイデンティティが揺らいでしまった女性達の言葉がとても重いです。

わたしにとって衝撃だったというか、盲点だったのは、男性への影響でした。

女性に管理職のイスを「奪われた」と感じている男性。女性活躍を推進する担当になったものの、女性達に昇進を拒まれて悩んでしまった男性管理職。妻に出世を煽られて病んでしまった夫。

「男が廃る」「夫として面目ない」といった、「呪いの言葉」が、彼らを縛っていることを感じさせました。

法律の施行から5年。いまは「女性活躍」という旗振り言葉だけが広まっていき、環境が整わないまま、働く人だけが生きづらさを抱える状況になっているといえます。いったい、誰のための改革なのだろう。

「女性の生き方について規範を押しつけるのだけは絶対にやめてほしい。いまだと、仕事と家庭を両立して、さらに職場でリーダーになってこそ、立派な女性って感じでしょ。そうじゃない道を歩んだ者からすると、すごいストレスだし、そこまでプレッシャーをかけられたら、わたくしも本音では『こんなはずじゃなかった!』と思えてくるもの」

キャリ女から専業主婦となった女性の言葉からは、「憧れ」という名の呪縛も感じてしまう。生き方の多様性を受けとめられなければ、息苦しさはもっと加速してしまうのかもしれないですね。



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