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つかみどころのないものを求める奈良の旅 『まひるの月を追いかけて』 #421
月は夜に見えるもの、というわけでもない。青い空にぽっかりと浮かんでいる姿を見ることもあります。お昼過ぎから夕方くらいまで、高い位置に見える月は「上弦の月」で、半月よりも大きな月です。
新月や満月の頃は太陽の光が強すぎて、見えにくくなくなってしまうのだそう。ただし、見えにくいだけであって、存在しないわけではない。意識して、かなり“一所懸命”に探せば、見えるらしいです。
月は存在を強く主張しない分、ミステリアスで文学的なイメージがあります。
見えそうで見えない、「まひるの月」のような人物を探して、女性二人が奈良を旅する物語『まひるの月を追いかけて』は、そんなミステリアスな空気をもった小説でした。
静は異母兄の研吾が行方不明になったことを知らされます。兄の恋人である優佳利に誘われ、奈良に向かった静。家族の過去が徐々に明らかになっていき、衝撃的で感動的な事実が知らされます。
疎遠だった兄。その理由と真意を知った静は、わりとストンと納得しているんですよね。たぶん好き嫌いの分かれる小説だろうなという気はしますが、わたしはとても好きでした。
旅先で兄を知り、兄を愛した女性たちを知る。そして、知らなかった自分の母の一面についても。一枚一枚ベールをはぐように、少しずつ事実が明らかになっていき、ページをめくる度にゾクゾクさせられます。
小説の見どころは、静の目に映る奈良の景色です。奈良市内の世界遺産地区だけでなく、飛鳥時代の古墳がある明日香や橿原神宮なども登場します。
恩田陸といえば“閉じた世界”という印象がありましたが、『月の裏側』とは正反対の、移動する物語です。
数年前に、小説の舞台となった場所を訪ねたことがあります。わたしはキトラ古墳が見たかったので、国営飛鳥歴史公園にある資料館にも行きました。期間限定で壁画の実物を見られたのが、とてもうれしかった。
1000年以上も前からそこにあって、ようやく外の世界に出会った壁画。また旅行できるようになったら、ぜひ訪ねたい場所です。
人と相対する時、誰もが仮面をつけています。絶対の、100%を知って、理解することなんてあり得ない。でも、それは「見えにくい」だけなんですよね。
昼間でも、38万kmの彼方に浮かんでいる月のように。はるか昔からひっそりとあった壁画のように。
つかみどころのないものを求める旅こそ、人生なのかもしれないなと思った。
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