かまわないで

昭和レトロのOL物語 『私にはかまわないで』#197

昭和の中頃にかけて活躍した大衆小説が人気、中でも源氏鶏太の復刻版は重版がかかるほど……というニュースを見ました。調べてみたら1年前のことだった。笑

なんであんなド昭和の小説が!?と意外だったのですが、産経ニュースの記事では「閉塞感を感じる現代の生活にはないおおらかさが受けている」からと分析しています。

ネット全盛時代では得にくい人間的なふれ合いや連帯感が明るく、おおらかに描かれている。忘れかけていたことを思い出させてくれるようで、読みながら心底ほっとするんだと思います
(「産経ニュース」より)

源氏鶏太の小説は多くの作品がドラマ化されたそうですが、わたしは『私にはかまわないで』が好きでした。なんと1978年の小説です。

今では死語となった感のある「OL」が主人公。彼女の周囲はとても“親切”な人ばかりです。誰かに会うといえば、その人の情報を事細かに伝えてくれる。何かをしようとすれば、いちいち心配される。

とある男性を紹介されることになるのですが、その相手についても会う前からどんどん情報が入ってくる状態です。いい話も、悪い話も。

自分の目で見て、自分で判断したい。

そう思いつつ、「NO」と言えずに悩む女性の日常が軽やかに綴られていきます。

源氏鶏太は1912年(明治45年)生まれ。住友合資会社や住友不動産に勤めるかたわら、生活費を稼ぐために副業として懸賞小説に応募。1951年に『英語屋さん』で第25回直木賞を受賞しました。

会社員が主人公の小説を多数執筆したため、「サラリーマン小説の第一人者」と呼ばれていたそうです。

産経ニュースの記事にもあるように、筆致がとても軽やかでユーモアがあるので、とても読みやすい小説です。なにより、会社の中の“親切”な人たちが皮肉たっぷりに描かれていて、「ああ、こういう人、いるいる!」と思ってしまいます。

たとえば、給湯室でばったり会った同僚に「知ってる? あの人さぁ、実は……」なんて話が始まった時に、どう返事するのがいいのか、未だにわたしには分かりません。笑

噂好きの同僚、世話好きの先輩、心配性の上司、職場のちょっと面倒な人間関係を、ちょっと笑いながら見つめ直すことができるかも。

高杉良や城山三郎、そして源氏鶏太らの「サラリーマン小説」は、その名の通り、サラリー“マン”が主人公なんですよね。『私にはかまわないで』の主人公は働く女性ですが、仕事する上での能力は求められていません。

職場を華やかにしてくれる“花”としてチヤホヤされつつ、早く結婚して子どもを産むように促される。男女雇用機会均等法が施行されたのは1986年のこと。それよりも10年近く前の小説ですから、これが当たり前だったのでしょう。

源氏鶏太の小説は順次復刻版がちくま文庫から出ているようですが、『私にはかまわないで』はまだのようですね……。Amazonでは古本が「1円」!

昭和レトロのイメージをはるかに超える、働く女性の現実がありますよ。

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