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甘くてビターなオトナのファンタジー 映画「今宵、212号室で」 #375

もしあの時、あの道を選んでいたらどうなっていただろう。

この疑問は、「いまの自分」に不安や迷いが出たときに浮かぶのかもしれません。

自分が選ばなかった道を歩んだ「仮の自分」は、幸せに暮らしているのかしら?

その、別の道を選んだ「もうひとりの自分」がいきなり現われたら?

もうひとりのわたしに聞いてみたいことは?

こじれたオトナの関係を、ファンタジックなユーモアで包んだ映画「今宵、212号室で」で、主人公はそんな経験をすることになります。これがまた、信じられないくらいに甘くてビターなストーリーでした。

<あらすじ>
マリアとリシャールの夫婦は付き合って25年、結婚して20年になる。ある日、マリアの浮気が夫のリシャールにばれてしまう。怒った夫と距離を置くため、マリアは一晩だけアパルトマンの真向かいにあるホテルの212号室に宿泊する。そんなマリアのもとに20年前の姿をしたリシャールが現れ、さらに元カレたちも次々と登場するという不思議な一夜が幕を開ける。

夫を大切に想いつつも、浮気を繰り返すマリアを演じているのは、キアラ・マストロヤンニ。父はマルチェロ・マストロヤンニ、母はカトリーヌ・ドヌーヴというウルトラスーパーアーティストな家庭に育った女優です。

大学の教授でありながら、教え子とも関係を持つほど奔放な女性を演じているのですが、観ていて是枝裕和監督の映画「真実」を思い出しました。こちらは母のカトリーヌ・ドヌーヴが主演。仕事のために周囲の人間を利用したのでは?と娘に疑われつつ、「大女優」としての自分を生きてきた女性です。

マンガの『のだめカンタービレ』に、のだめがユンロン(中国人留学生)にたしなめられるシーンがありました。のんびりしていたら、フランス人のおじいさんに言い寄られてしまったのだめ。「だっておじいさんじゃーん」と言うのだめに、ユンロンは言います。

「おじいさん違う! フランス人だ!」

ですが、この映画の中で描かれるフランスの男たちはとても繊細。代わりに女たちは過去を振り返らずに生きてるんですよね。

25年前の夫が現われたと思ったら、これまでの浮気相手、夫の元カノまでが次々に登場。怒りと悲しみに打ちひしがれるリシャールと、心が揺らぐマリア。それぞれに頭をよぎるのが、

もしあの時、別の道を選んでいたら?

でも結局は、「いまの自分」を正解にするように生きるしかないかなと思う。シャンソンの名曲と共に楽しめる、オトナの映画です。

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