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SF世界の手引き書 『未来世界から来た男』 #388

星新一とくれば、やっぱりこの人もということで、今日はフレドリック・ブラウンの短編をご紹介します。

フレドリック・ブラウンは1906年生まれのアメリカの作家で、SF黄金期を代表する人物です。第一次世界大戦より前ですよ。ちなみに、この年の3月に東京の上野に帝国図書館が開館しました。

ショートショートの名手としても知られていて、『さあ、気ちがいになりなさい』は星新一さんの翻訳です。現在ならこのタイトルでは出版できないだろうなぁ。

短編集『未来世界から来た男』は、1963年に創刊された「創元SF文庫」の第1弾となった本です。このレーベルがあったからこそ、J・P・ホーガンの『星を継ぐもの』や、田中芳樹の『銀河英雄伝説』も世に出たといえるのかもしれません。

『未来世界から来た男』は、「第一部 SFの巻」と「第二部 悪夢の巻」に分かれ、短編とショートショートが収録されています。

その中のひとつ「二十世紀発明奇譚」は、二十世紀に発見された偉大なる3つの秘訣についてのお話。忍術の秘訣・不死身の秘訣・不老不死の秘訣なんですが、それぞれ人間の欲を描いたブラックなオチがついています。

星新一との一番の違いは、登場人物に「名前」があることではないかと思います。

星新一は登場人物に個別の名前を与えませんでした。時代性や個別性を出さないために「エヌ氏」や「エス氏」と表記し、「ダイヤルを回す」といった表現はどんどん改訂していたのだそう。

ところがブラウンは、きちんきちんと名前を付けてあげてるんですよね。

英語という主語を必要とする言葉の場合、個別性を消すという選択肢は考えられなかったのかもしれません。もしくは「名前」がある方が、不条理な状況で悪戦苦闘する主人公に共感できると考えたのかも。

星新一や筒井康隆らにも大きな影響を与えたフレドリック・ブラウン。発売当時は、「SF世界の手引き書」と見られていたようですが、その色はいまでも褪せていないなと感じました。

我が家の本棚にあるのは、赤い人魚の絵が印象的な小西宏さん翻訳のもの。初版が1963年に出版されています。現在Amazonに入っているのは表紙が違うだけのようです。うーん、新訳が出たらうれしいな。

「読み出したらやめられないおもしろさ、というきまり文句がぴったりの短編集」と自ら語るとおりの一冊です。



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