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ブルーグレーの中で.

夏至が近づくにつれて明るくなる時間が早くなってきた。

朝3時、鳥が囀り出す。
朝4時、外が明るくなり始める。
朝5時、陽がさし始める。

春は、1日の始まりと終わりが同じ顔をしてくれる。
朝日と夕日が同じ青色をしているのだ。

4月下旬。
同じ顔をしてくれなくなった空に気づいたとき、「ああ今年の春もまたひっそりと息をひきとってしまったのだな」と、気づいた。

私は夜明け前から太陽が出るまでのブルーグレーの中でいつも眠る。
眠って、深く、深く、沈み込む。
ベッドいう型に、体のパーツをはめこむように。
意識を奥深くまで溶かし込むように。

今日はとりとめない日々の話をします。

私が寝れなくなったのは2月に痴漢されてから。
寝付けないし、途中で4、5回起きるようになってしまった。
一瞬目が覚めては、携帯で時間を確認して、まだ起きる時間じゃないことに落胆して、目をつぶり、意識を手放す。
その繰り返し。

夢を見るようになった。
すごく怖い夢ばかりで、なかなか厄介だなぁと思う。
覚えてる限りで一番怖かったのは、4月30日の朝、彼と別れ話をした朝だ。

その日もブルーグレーの中で眠りについた。

ベランダに車が止まっている。
実家の軽自動車。深い紫色の、黒と見紛うようなタント。
そもそも実家はマンションだしそんなベランダ広くないからこの時点で夢なんだけどね。
私は部屋の中にいて、Zoomで友達とおしゃべりをしている。
たぶん夢の中の私はそんな感じで夜通しおしゃべりをしていて、朝、ブルーグレーに気づいて、カーテンをあける。
するとそこには車が止まっている。
ベランダの鍵が開くことはない。
車の運転手席にはパパ、助手席にはママが座っている。
パパとママは微動だにせずに、まるで人形のように部屋の中にいる私を見つめ続ける。
じっと。何も言わずに、ぴくりとも動かずに。
カーテンを開けた私は、車の中にいるパパとママと目があって、目が離せなくなる。
すると、パパとママの目がくぼんで、真っ黒になって、目からだらだらと真っ黒の墨のようなものが溢れ出す。
けど、夢の中の私はそこから動くことはできない。
逃げ出せもしない。

そこでびっくりして起き上がったら、夢だったことに気づいた。
息が荒いのが自分でもわかった。
彼氏じゃなくなっちゃった人が起きたらそこにいてちょっとびっくりしてた。
うなされてたって。
すごくすごく怖かった。

あとなんかおばあちゃんが夢の中でまた死ぬ夢とか、自分が呪われる夢とか、爆破する建物にわざわざ行って死ぬ夢ととか、ゾンビに追われる夢とか、まあいろんな夢を見る。

悪夢、見るよね。
忘れられない夢、忘れたい夢、忘れちゃった夢。

陽が差し込んで青くなり始めた夜明け前の天井を見るたびに思う。
今夜こそはいい夢が見られますように。
今夜こそは悲しい夢を見ませんように。

私が好きないろ。
夜明け前の空の色。
淡いブルーグレー。
空の色で一番綺麗な色。
たぶんこんなに綺麗なのは、美しいと思えるのは、夜明けだから。
夜明け前の、真っ暗闇から抜け出す、地球にいる生きとし生けるものを全部真っ暗闇から掬い取って、救いとって、くれるような、そんな色。
それが力強い色だったら、空の色に負けてしまう人も出てくる。
だから神様は夜明け前のこの空をブルーグレーにしてくれたんじゃないかと思う。
神様は世界で一番優しい色を夜明けの色にしてくれたんだと思う。

やさしい、とてもとてもやさしい、そのあとに、陽がさし始める。
光は力だ。いのちだ。
はじまりだ。

「いい夢が見られますように」
この言葉を毎日切実に思う日々がくるとは思わなかった。

眠れないのはいやだけれど、眠れないから朝の色に気づけた。
ブルーグレーを知れた。
きっと神様はこのやさしい世界の入り口を、世界を簡単に好きになれない私に教えてくれようとしているんじゃないかな、と、ふとそんなことを考えながら、今日も青く染まり始めた天井を見つめる。
そういうことなら、少しくらい意地悪をされてもいいんじゃないか、少しくらい人より寝れなくてもいいんじゃないか、と思えてくる。

夜明け前の、ブルーグレーの中で。
世界が愛おしいと思える瞬間がひとときだけ訪れる。
それは私がブルーグレーにとけこむ前のあの一瞬。

「いい夢が見られますように」

今日も、ブルーグレーの中、
とける。



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