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映画へGO!「ふたりのマエストロ / Maestro(s)」

(※多少のネタバレあります)
派手な宣伝・PRはありませんでしたが、自分としては指揮者の世界への興味が強いモチベーションとなり、本作を鑑賞してきました。

世の中にはそれこそいろんな職業があると思うのですが、指揮者とは、自らは音を鳴らさない音楽家。その生態があまり知られていないという意味でもとても神秘的な存在だと思います。

父と息子がともに現役で活躍中の指揮者、というのが映画の基本設定です。
それだけでも何か起こりそうな雰囲気ありありなのですが、さらに親子の間で積もりに積もった訳あり感がプンプン匂ってきます。

で、息子は今や高名な音楽アワードを受賞したり、実力・人気共に飛ぶ鳥を落とす勢いの中、ミラノの”スカラ座”の音楽監督というとてもビッグなオファーが舞い込んできたのは父の方だった・・・・・と思いきや、それはスカラ座側の連絡ミスで、本当に指名されたのは息子の方なのでした。

「なんじゃそりゃ」って話ですよね?
もしそうなったら本来スカラ座がきちんと仕切り直しをすべきなのですが、なぜかストーリー展開としては、息子が自分の父親に「指名されたのはあなたではなく私です」と伝えないといけない役目になり、そこからいろいろなドラマが引き起こされていくのでした。

はじめは、そんな大筋の流れに違和感を感じたのですが、オーケストラの世界、指揮者の世界の面白さが違和感を上回り、さらにそこに絡みつく家族の確執に興味が惹きつけられ、段々気にならなくなりました。笑

「TAR」を観たときも感じたのですが、指揮者というのは強いリーダーシップと卓越したクリエーティビティを求められ、それゆえにある種の権力も握ることになりますし、逆に深い孤独を感じることもあるでしょう。

父と子が指揮者ということになれば、父の苦悩・子の苦悩・家族の苦悩、そこから生まれる嫉妬・恐れ・傷・不安・・・とドラマ要素には枚挙に暇ないのですが、この映画の芯となって貫いているのは、結局はそれらを乗り越えていく”愛”の力なのでした。

もっと言うと、その”愛”の姿が力強く実を結ぶのは、お互いが本心・本音をぶつけ合うことによるのだというのが、この映画の主題だと感じました。
かなり衝撃度の高い告白もありますし、時に刃物のような切れ味の言葉のやり取りも出てきます。
父から子、子から父、妻から夫、恋人から子・・etc. いろんなぶつかり合いがつながることで、まるで集大成のように、子が父を乗り越え、父がそれにエールを送って去っていく、ほろ苦くも素敵なエンディングへとつながりました。

映画としての魅力ということで考えると、オーケストラの演奏シーンには痺れます。
リハーサルのシーンで楽曲が盛り上がり、指揮者と歌手がアイコンタクトで通じ合っていたり、オーケストラとして全体に化学反応が起きてうねっている感じ、とかも映像に収められているのですが、ある意味重たくなりがちな人間ドラマに、抑揚やリズムを与えてくれますね。

あと、やはりパリは反則です。パリを舞台にすると、自然と画面の格調が高くなってしまいます。文化と愛の街だな・・・と。

個人的評価:★★★☆☆
丁寧に演出され描かれた家族の物語の良作。ヴォカリーズやアヴェ・マリアなど好きなクラシックの楽曲が出てきたのがうれしい。





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