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映画へGO!「鬼平犯科帳 血闘」

(※多少のネタバレあります)
「SHOGUN」のように、ハリウッドがグローバルエンターテインメントとしての時代劇をつくるご時世。Made in Japanの保守本流である松竹が、今どのような時代劇を撮るのかに興味が湧いて、「鬼平犯科帳」を観て参りました。

ところどころで、余白・余韻のないテレビドラマ風な、的確過ぎる描き方が気にはなってしまったのも事実ですが、気づけば徐々に引き込まれ、時代劇特有のカタ、歌舞伎的な見得の切り方などの演出が心地よく感じてきて、それらを映画館の大画面・大音量で体感できるって意外といいかも・・と総じて満足できたのでした。

殺陣シーンはかなり計算されつつ、ダイナミックに撮影されていて、バックグラウンドにオーケストラ的なトラックを流すなど、心湧きたつ新鮮なチャレンジもありました。
また“血闘”というだけあって、テレビでは見せられないくらいの激しい斬り付けを、画面を暗く落とすことで、グロにならない寸止めに表現していました。
度を越したやり過ぎ感はなく、むしろ日本の時代劇を、これから先もきちんと作り上げたいのだという矜持が伝わり、どこか応援したくなる好感を持てたのでした。

で、それを支えていたのは、やはり層の厚い俳優陣でしょう。
一番印象に残ったのは、中村ゆり。素晴らしい。美しく儚い、肝が据わった役柄にピタッと入り込んでいて、過去・影・覚悟があるキャラクターの陰影を見事にスクリーンに表現していました。

松本幸四郎も良かったです。過去から偉大な先人達が演じてきたというプレッシャーもあったかもしれないですし、元半グレの役にしてはお顔立ちが綺麗すぎるかも・・と危惧していましたが、大立ち回りでの殺気からの、ひと暴れした後に滲み出る色気は流石だと感じましたし、ちょっと抜けたところもあるが懐の深い役柄に、上手く乗り移ることができたのではないかと思います。
何作かシリーズ化されて、清濁併せ呑む雰囲気がより自然に出せるようになることをさらに期待したくなりました。

あとたくさんのバイプレイヤーのみなさんが、いずれも画になる雰囲気を随所に出していて、物語全体のテンションをキープ。映画のクオリティ感を支えてくれていたと思います。

活舌悪いままに、おまさを助けるよう必死の形相で訴える柄本明。隠し切れない平蔵への淡い恋心を抱く志田未来。強面ながら平蔵への忠誠オーラをとことん身に纏った本宮泰風。いるだけで画面に安心感を与える火野正平(芸名の名付け親が池波正太郎先生!)。敵役としての深い怨念を下衆に表現し切った北村有起哉・・・etc.。

いろんなシーンが目に浮かび、その積み重ねが映画の印象を作り上げているんだと思います。

昔、テレビドラマの鬼平犯科帳のエンディングに、ジプシーキングスの”インスピレーション”という曲が使われていて、非常にメランコリックな中にもどこか奥底のポジティブさを感じる、エモーショナルな後味があったので、今回も期待してましたが、残念ながら別の曲でしたね。
もし”インスピレーション”が流れたら号泣していたと思います。笑

個人的評価:★★★☆☆
本作とはまた異なるテイストで、同じ池波正太郎先生原作の「仕掛人・藤枝梅安」も観ましたが、そちらはよりモダンなエンターテインメントに昇華されていました。個人的には、「梅安」の方が好みではあります。
ただ、もはや連続テレビドラマで時代劇をつくることは難しいでしょうから、映画というフォーマットで、日本の時代劇がいろんなスタイルで継承・進化していって欲しいと思っているので、「鬼平」の方も応援したいと思います!

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