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妄想リスニング#5 Wayne Shorter "Footprints Live!" × Autechre "NTS Sessions"

偉大なジャズサキソフォニスト、ウェインショーターが亡くなってしまったのはつい先日。
アートブレイキーのジャズメッセンジャーズでの活躍から、マイルスデイヴィスのグループで音楽的パラダイムシフトを起こし、ウェザーリポートでフュージョンブーム、そして最後は自身のカルテットでまるで魔法のような音楽を構築して、天へと昇っていきました。
僕はどれだけウェインの音楽を聴いて影響を受けただろうなぁ、大きすぎてわかりません。
"魔法のような"という彼の音楽に対する形容表現は、その音楽が常に聴いたこともないような"現象"へと昇華されることを意味しています。
演奏者本人ですら先に何が起こるかわからず(意図的にそうなるように演奏しているんでしょうが)、常にそれを楽しんでいる、そういう奇跡のような現象でした。
森羅万象のように、さまざまなきっかけが偶発的に配置されていって、そのいくつものきっかけが結びついて巨大な竜巻のようになっていきます。
あらゆるパルス、音の結びつきが、どこまでランダムなのか意図的なのかがわからないんです。
演奏が始まった瞬間から、何も起こらないということが全くなく、すごいスピードで何かが起こっていきます。

乱数的にビート音が聴こえると、場合によっては音楽ではないように聴こえるかもしれませんが、僕の場合は、外に出たときに聞こえる全ての音が音楽のように思えて、あるときからそういうものを音楽にも求めるようになりました。
ウェインのグループは、僕がずっと探し続けていた音楽を体現するグループだったんです。
そんなものを人力の演奏でできるなんて信じられませんでした。
だから、そんな音楽を求める先はエレクトロニカの中だったというわけです。

今回、妄想的に結びついたのはAutechreの、数時間にも及ぶ超大作である"NTS Sessions"です。
音楽とは何かを考えたとき、究極的には"聴こえるもの全て"とすることができると思います。
それが意図的であれ、偶然であれ、何かの結びつきによって瞬間的にでもハーモニーになるなら、音楽と言えるんじゃないかなと思うんです。

オウテカの鳴らすビートはパルスパターンを提示するものではなく、乱数的にも聞こえ、それでも不思議なオーガニックさとなんらかの意識や意図を感じ取ることができます。
予期されるのを嫌うかのように、さまざまな現象が次から次に巻き起こり、その世界にあっという間に飲み込まれてしまいます。

ウェインとオウテカが生み出す、凄まじい音楽現象、是非同時に味わって欲しいものです。

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