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「君の名前で僕を呼んで」感想 (ネタバレ有)

30年前の映画「モーリス」が4kで上映、何故かと思ったら、ジェームズ・アイヴォリー脚本の「君の名前で僕を呼んで」がアカデミー賞ノミネート、脚色賞受賞、それでか納得。
ポスターでは友情モノだと思っていたので、ノーマーク。
というか、もうあらすじほとんどネタバレですやん、っていう位のポスター。そして、そのまま突き進むストーリー。
歳を取った私が、17歳の少年の心情を思いながら観る事が出来るか、いささか不安だったが、それは杞憂というものだった。

1980年代、北イタリアの避暑地で、17歳の主人公エリオは教授である父の手伝いでやってきた24歳の青年オリヴァーと出会う。
正直オリヴァー24歳にしちゃ、老けてね?が第一印象だった私だが、それが後々いろんな所で、少年と青年の友情を超えた愛、として印象付けるのに成功していると思う。
少年時代特有のしなやかな体躯のエリオに比べ(演じてるシャラメは20超えているはずだが、少年体型だ)、がっちりとした青年オリヴァー。
最初は反発しているかのようなエリオだが、自分でも意識していないが意識しまくり、だったのだ。
そこに、なにかとタッチタッチしてくるオリヴァー。
まあね、スキンシップ激しいのね、モテるわね、とは思ったけど。

だんだんと、だんだんと、意識し始めるエリオだが、オリヴァーは女性(なんだっけ名前忘れた)と踊ってみたりスキンシップ激しくしてみたりで、
エリオも負けじと友人マルシアとあんなこと、こんなことしてしまう。
まあ、若者の夏よねえ、うんうん、と思っていたら、エリオはもう実はオリヴァーに夢中、視線の片隅で追いかけ、そして短パン(水着?)かぶってみたり、もうね…、恋するとバカになるのよ…、そうなのよ…。他人から見るとね、本人は必死なんだけど。

そして、とうとうキスしてしまう二人だけど、エリオの方がやる気満々、口あけて待ってるからね!!そこを大人の抑制力(と立場)で「このくらいで止めておこう」というオリヴァー。
まあ、そりゃあお世話になってる教授の息子さんに手を出す…しかも同性…、うん?複雑。
だが、若いエリオにもう、抑制力なんてものはない!!
避けて時間を一緒にしていないオリヴァーに、もうメモ書いては捨て、メモをそっとドアから入れるエリオ。
それに応えるかのように、「夜待っている」と返事を貰う。
とうとう、とうとう!!なのだ。だが、若いエリオの性は時間を気にしつつ、ガールフレンドマルシアとあんなことして、夜時間がくるのを待つ。この残酷さが若いとき特有で素晴らしい。

実はオリヴァーも誘っていたのだ、最初のスキンシップから。
このシーンはキスシーンや、その後のシーンよりも、まず手を重ね合わせ、脚を重ね合わせ、そのなんと官能的なことよ。
直接的なシーンよりも(キスシーンはやはりエリオの方ががっつきぎみだった←若さ)なんとも印象的なシーンだ。
ただ、所々に映される、オリヴァーの苦い顔立ち。まあそりゃあそうだろう、お世話になっているお宅の息子さんとこんな事になって、同性同士なんだから。そして、ここにいられるのは期間が限られているんだから。

そして、エリオはいじらしくも帰る前にオリヴァーに最初に来ていたシャツをくれと頼み、貰ったその日にもう身につけ、
我々に「彼氏のシャツ着た彼女状態」を見せ付ける(久しぶりに見た、あれ)
そして、あんなことしたマルシアが来てもつれない態度、さすがにマルシアも気付き帰ってしまうのだが、もう頭の中はオリヴァーで一杯のエリオに罪悪感は無い。

両親の計らいでオリヴァーの帰国時、一時一緒に行動するエリオ。
はしゃぐ二人は子供のようで、でも時間は限られていて、そのはしゃっぎぷりに、胸が痛くなった。
二人とも二人っきりになれてはしゃいでいるのは勿論だが、別れが刻一刻と迫っているのだ。それを忘れてはしゃぐしか、無いのだ。
とうとう、別れの時間。これからの事とか、何か言いたいけど、でも言えなくて「パスポート持った?」とか普通の事しか言えないエリオと、もう抱き合う位しかないオリヴァー。

とうとう別れ、精魂尽き果てたのか、母親に迎えに来てもらうエリオ。
涙ぐみながらボーっとしている所に、元カノ(と言っていいのか)マルシアも気を使って(!)、友達でいようって、あんたビンタのひとつ位してもいいと思うだけど、優しすぎ。
そして、父親も、息子とオリヴァーの関係を知りながら、やさしい言葉をかけてくる。
私は実は、エリオとオリヴァーの関係性より、父親のこの台詞ひとつひとつが身に沁みた。心の中で(そうなんだよねえ…)と思いながら観ていた。
まあ、どちらかと言えば父親の歳に近いであろうから、だけど。
もうね、優しすぎ、皆。

そして、季節は冬、雪が降る中、オリヴァーから電話がかかってくる。
2年付き合っていた娘と婚約したと。
この辺りが、どう見ても24歳老けすぎだろ、と思ってたの回収にきたのか、と自分では思った。
もう社会的には大人であるオリヴァーは、こうするしかなかったのであろう。
そして、驚くことに80年代でも同性愛はまだタブーで矯正施設へ入れられる話だったのだ、ひと昔前で。
そりゃあ「モーリス」の時代なんていったら、タブー中のタブーであろう。
そこでもお互いに「オリヴァー」「エリオ」と互いの名前で呼び合う。
これが、最後の呼び合いになってしまったのだ。
そして、頭の整理がつかない中、暖炉の炎を見つめながら、呆然とし、でもだんだんと理解し始め、最後は笑うような諦めるような顔になるエリオ。
なんと3分30秒も長回しで撮っていたようだが、釘付けで気がつかなかった。
そして、母親から「エリオ」と名前を呼ばれての最後はやはり最高の終わり方だと思う。
もう、「オリヴァー」とは呼ばれないのだから。

※アイヴォリー脚本では、やはり全裸シーンがあったらしく(さすが「眺めのいい部屋」や「モーリス」で全裸あったしね!!池できゃっきゃうふふよね、アイヴォリーなら!!)
役者の契約上、却下されたとの事。

※続編話もあるらしいけど、これで終わりでいいと思う。
夏の思い出は彼らにとって、かけがえの無い宝物、そっと取り出すように眺めるだけで良いのだから。

※観てきた映画館が30年前リアルタイムで「モーリス」観てきた映画館で、個人的に泣きそうだった。


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