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戦えペプシマン

あんなことがありながらも、先輩はまだ僕の部屋に住んでいた。
あんなこと↓

さすがに申し訳なく思ったのか、僕にバイトを斡旋してくれた。
それは、イベント会場などでペプシマンの着ぐるみに入る仕事だった。

ペプシマンは楽しかった。
子供がわんさか寄って来るので、その子供らとじゃれ合ったり追いかけたり持ち上げたり一緒に写真撮ったりしてれば良かった。
試飲をすすめるコンパニオンのお姉さんたちとも仲良くなったし。

ただ、楽しいペプシマンにも問題点が2つあった。
1つは、とにかく熱いこと。
2つ目は、1着しかないペプシマンをその先輩と共同で着ないといけないこと。

先輩は、大の風呂嫌いだった。
あまりに風呂に入らないので、無理矢理銭湯に連れて行ったことがある。
体も洗わずに10秒ぐらい湯船に浸かって、急いで出て行った。
そんなんだから、当然先輩は臭かった。
ろくに洗濯もできないペプシマンには、先輩の匂いが強烈に染みついていた。


その日の現場は、真夏のプールサイドだった。
ペプシの屋台を出店したので、僕が客寄せのペプシマンになった。
「水着のお姉さんも見れてラッキー‼︎」とか思って浮かれてたが、それも最初の30分ほどだった。

昨年も、真夏に着ぐるみショーをしてた方が熱中症で亡くなったニュースがあった。
真夏の着ぐるみの中の体感温度は、50度を超える。
あまりの熱さに、意識が朦朧としてきた。
そこに先輩の匂いも加わって、命の危機を感じた。

その頃モーニング娘。の全盛期で、プールのBGMはモー娘。がヘビロテでかかっていた。

「にっぽんのみらいは、ウォウウォウウォウウォウ」
(……熱い‼︎臭い‼︎……そもそもなんで俺、こんなとこでこんなことしてんねん……‼︎)

「せっかいがうらやむ、イェイイェイイェイイェイ」
(……ほんまやったら、今頃あの子とプール来てたかもしらんのに……‼︎)

「こーいをしようじゃないか、ウォウウォウウォウウォウ」
(……全部先輩のせいやないか……‼︎熱い‼︎臭い‼︎熱い‼︎臭い……‼︎)

「ダンス、ダンシンオールオブザナーイ」
(うあああああああああああああ‼︎‼︎)

ざっぱーーーん

ペプシマンは前宙しながらプールに跳びこんだ。

わずかな隙間から、水が流れこんでくる。

「うわ、つめた‼︎きもち‼︎」

生き返った。
子供たちも大喜びだ。
三途の川を渡りそうだった頭がこの世に引き戻されて、理性が蘇ってきた。

「これ、めっちゃ怒られてクビになるパターンちゃうん…」

イベントの偉い人の方を、チラッと見る。
手を叩いて笑っている。

いいんや‼︎

試しに、子供を抱いて跳びこんでみる。
偉い人の方を見る。
大笑いしている。

これもいいんや‼︎

調子に乗って、群がってくる子供を次々にプールに投げ入れる。
偉い人の方を見る。
なんかサムアップとかしながら笑ってる。

ホンマにいいの⁉︎

やりながら心配になって来た。

結局、ペプシマンのままプールで子供たちと遊び、存分に泳いだ。
「明日は、先輩がペプシマンする日やったなぁ…」
チラッと頭をよぎったが、もうどうでもいい。


びしゃびしゃのペプシマンを積んだバンを運転して、事務所に帰った。
まだびしゃびしゃ水が垂れる状態でハンガーにかけて、急いで事務所から逃げた。

「明日は先輩、びしゃびしゃのペプシマン着るんやな。ざまみろ‼︎」
チャリンコで御堂筋走りながら、ニヤニヤした。


翌日、ペプシマンから帰って来た先輩は、風邪引いて寝こんだ。




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