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一月の星々、ふりかえり|140字小説

140字小説コンテスト「月々の星々」
一月のお題は「定」でした。

2024.01
今更ですが、2023年の月々の星々に投稿した作品をまとめようかと思います…。備忘録的に。TwitterがXになり、なんだか足場が不安定になってきましたしね。

no.1
部屋の灯りを落とす。家人の寝息は規則正しく、加湿器の唸りと調和している。一月一日のただの夜更けに、奇跡は起きず物語も始まらない。換気で細く開けていた窓を閉じれば、部屋は安全に守られた箱。壁の隙間に這うシダを想い、寝そべる獏を撫で、カーテン越しに銀河を視た。不定の咳払いが星を払う。

年明け早々、家族で寝込んでいた時の文。どうにか症状も治まって、健康ってありがたいな……と当たり前の幸福を噛み締めていました。
思えば、衣食住に困ることなく、家にこもって養生に専念できるのも小さな奇跡でありました。

no.2
身の回りの小さな出来事を集めて物語をつくっている。丁寧に手をかけて書くと、不定期に買い求めていく客がいる。日の目も浴びず、ただネットの展示室に綴り置いたそれを、これからは自分だけの物語にしたいのだと言って。これは貴方だけの物語。そうして得た収入で、私は誰の、どんな物語を求めよう。

路地裏の画廊みたいな立ち位置でものを書いていたい。好きなものを並べて、商いにこだわらず、たまたま立ち寄った人がふらっと眺めて、きれいだったなって思ってほしい。そんでときどき思い出して、あれ良かったよなって、気持ちが少しうるおってくれたら嬉しい。

no.3
数学のテスト問題の定点Aが逃げたがっていた。紙の上で必死に足掻いていたから、私はテスト用紙を紙飛行機にしてやった。驚きと期待に輝く定点Aに目配せして教室の窓から飛ばしたら、ありがとう、と聞こえた気がした。遠くへ行けてるといいなと思う。これが私がテスト用紙を飛ばした理由です、先生。

これ私的には傑作。お気に入り。最後の一文を思いついたとき天才じゃなかろかと思った。好き。
でもお気に入りが受賞するかというと別にそんなことはなくて、だから好きなものを好きに書いて好きだと言えばいいと思う。

no.4
定刻通りに降り始めた人工雪は静かに地表を覆った。私は放送塔の窓から町を見下ろし、町内放送のボタンを押す。《まもなく冬眠のお時間です。》降雪を合図に私たちは眠りに就く。人が地を消費し尽くさないように、ノッカー・アップ役の彼が起こすまで。町が眠る中、一人起きて過ごす彼へ手紙を残して。

雰囲気だけで書いたものですなぁ。でも私はこういうふんわりSFが好きなんだなぁ。

no.5
毎朝駅前の自販機で缶コーヒーを買う。ゴチャンと出てパッカと開けてグィ飲む。液晶画面のスロットがぴぴっと回って当たればもう一本。外れると自販機は『マタ挑戦シテネ!』と毎度おなじみの挨拶を返してくる。定型文の音声に宿るぬくみとおかしみ。ひとつ伸びをして仕事に向かう。うん、じゃあまた。

職場の近くの自販機が喋るやつだったんですよ。『今日も元気に、行ってらっしゃい!』とか言ってくれるの。機械なのにね、でもなんか嬉しくなるんですよね。



2023年は、ひたすらしずかに、ささやかに生きる年でした。そういうこともある。


以上、ふりかえりでした。
皆さまの素晴らしき星々作品はこちらから!


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