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一月の星々(140字小説コンテスト第3期)応募作 part1

part1 part2 part3 part4 part5 結果発表

月ごとに定められた文字を使った140字小説コンテスト。

今月の文字は「定」。

1月31日までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去のコンテストなどは下記をご覧ください)

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応募作(1月1日〜5日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

1月5日

洸村静樹 @seijukomura
遠雷にあてられて彼らは惑い、安全な広場に集った。彼らは声を上げた。言葉は反射し善きことの予感が溢れた。それほど巨大な喪失だった。でもそれぞれに必要な時間が経つと、彼らは散らばっていった。

あなたは今も立っている。
忘れられない地名を掲げ、燃焼する恒星の定めを湛えて。

右近金魚 @ukonkingyo
ある夜のこと。人魚達はなぜか胸が泡立って歌いだしました。歌は連なり巨きな網となり凍えた光が一つ、ふたつと掛かりました。皆、これも定めと海に迷い出した魂でした。
「あがれあがれ、光星」
歌に乗り、光は静かに遥かに昇っていきました。人魚が真珠の涙を零したのは何故か、知る人はおりません。

宇呂椎太 @UroSheeta
寂しい人生を歩んできた。この歳になると、金を使わなければ愛を手に入れることはできない。ささやかな交流を持つために月額約3,000円の定額制サービスに加入してからは、もう1年が経過しただろうか。「ありがとうございます。」彼女の声を聞くためだけに、今日も缶コーヒーを買っていく。

hazuki @pmableo
勉強を教えてくれる君の顔や息使いばかり目で追って、頭の中は君で満たされる。笑っちゃうくらい君に夢中なんだ。定期テストの問題が君の事なら、僕は満点をとれるよ?でも君は僕に興味なんかなくて…。そんな君に僕の事教えてあげたい。
肩が触れた。腕が触れた。想いが溢れて君の頬に手を伸ばした…

 @Z9hmdBIPGCSspEx
発車のベルは気が利かなくて定刻通りに鳴る。「寒いから早く乗りなよ」私から漏れた白い言葉は宙を漂う。乗る間際、不意にあなたの瞳から溢れた涙が凍ってホームに転がった。私はそれを拾い集めて、糸で繋いでネックレスにしよう。肌に触れる冷たさはあなたを忘れさせない。いつか溶けてしまうまでは。

イマムラ・コー @imamura_ko
今日は私たちアンドロイドにとって大事な定期点検の日だ。体を分解され調べられた結果、下腹部に白い液体が漏れていたことがわかった。私には人間の彼がいる。でもキス以上のことはしていない、はずだ、たぶん…。詳しい検査の結果、それは大好きな甘酒だとわかった。変な想像をした自分が恥ずかしい。

きり。 @kotonohanooto_
ゴミは指定のゴミ袋に。我が町にもついにその日が来る。困った。何せ指定のゴミ袋とやらは半透明でよく見ると中身が見える。今までは、自分の皮を毎日脱ぎ捨てては、黒いゴミ袋に捨てれば特に問題なかったが、客観的に見ても、件の袋に入った自分の皮は怪しかった。しばらく、悩ましい日が続きそうだ。

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
指定席に座るとまさかの隣は学生時代に好きだった男子。飛行機離陸と共に心も浮上。昔懐かしの恋心が思い出されて甘酸っぱい気持ちが胸に広がった。久しぶりの再会に会話も弾む。到着出口で「パパ!」と呼ばれた彼は、女の子を抱き上げて幸せそうに笑った。大人になったんだなぁとチクリと胸が痛んだ。

千振 藍晶 @10002riranshou
「いくら定石沢山覚えたって試合しなきゃ勝てないよ。そんで、勝たなきゃプロにはなれない」格上との試合を先延ばしにし続けている俺を見透かしてあいつは言った。俺はハッとした。自分に自信がつくのを待ってたら一生挑めない。自信は勝負に勝つことでしか得られない。俺はその日昇級試験申込をした。

藤和 @towa49666
ノートの上に書かれた方程式を目の前に頭を抱える。どうしても定数の求め方がわからない。数学が得意な奴らは、こんなの式を見れば自明じゃないかというけれども、計算が苦手なこっちからすれば自明じゃない。これで数学が好きなのだから困る。だって、幾何学問題を解けたときの爽快感は忘れられない。

かっくん @kakkun4141
デートしていたら絡まれた。こういう時、ドラマでは大概不良の方がやられてしまうが、今日もお定まりのコースになるに違いない。僕は警告してやった。「大人しそうに見えるけど、舐めない方がいいぞ!」案の定不良たちはのされた。だから警告したんだ。空手の全日本女子で優勝した彼女を舐めるなと。

滴一滴 @teki1teki
祖父が死に、家を解体していると、小さな定礎箱から、ミイラのような手が出てくる。父がそれに向けて何かを呟くと、翌日、食卓に、私を産んだ直後に死んだはずの母が座っている。ついでに両親の愛も復活し、私は無視され始める。だから今、私は父の書斎で小汚い腕を握りしめ、父の愛を返して、と願う。

メイファマオ @molmol299
この花はね、定家葛。藤原定家に纏わる伝説が名の元なんだって。
恋した女人が忘れられず死後に葛になって墓に巻きついた…っていう。
茉莉花だと思った?確かに香りも形も似てるけどさ。
毒花よそれ。
迂闊に素手で触ると危ないし口に入ったら大変よ?
酷い汗ね。
茉莉花茶でも飲む?
落ち着く為によ。

黒野綯路 @High_Delight
馴染みの定食屋が、看板を下ろすそうだ。ご主人の腰が限界らしい。あの店の生姜焼きは好物だったのに、残念だ。ある日散歩していると、奥さんの押す車椅子に座ったご主人を見かけた。膝に上った俺の頭を撫でる無骨な手に、肉球を重ねる。包丁を握れる手で生まれていたなら、弟子にしてもらえたのかな。

1月4日

月夜の獏 @yumemisakka
古いたばこ屋のカウンターが彼女の定位置だった。学校帰りにのぞくと、キヨばあちゃんが彼女の背中を撫でて満足げな様子になったところを(ほら、おさわり)と笑顔で促してくれる。そっと私は彼女の額に触れる。私が中学生になった頃、キヨばあちゃんが入院したと聞いた。そして彼女も姿を消した。

東方 健太郎 @thethomas3
それならば、東へ向かうべきか、否、西へ向かうべきか。或いは、北に向かうも敵ばかり、南へ向かうも敵ばかり、と仰るなら、いざ、どこへ行かん。危ぶむなかれ、危ぶめば道はなし、と話す人がいた。此処から、彼方へと。この不屈の魂を、その定位置に据えたなら、人の笑う道を、ただひたすらに歩まん。

夜世瑠李 @yoruserui
定期便で送られてくる貴方。今月は左薬指でした。私はそれを赤い糸で自分の左薬指と結んで「運命」とか「愛」だなんて嘯いてみます。集めた貴方をプラモデルみたいに組み立てました。唇が足りません。虚ろな目で私を見下ろす貴方は剥き出しの歯で噛み付いてきそうです。優しい口付けは来月でしょうか。

夜世瑠李 @yoruserui
三角定規に空いた丸穴から覗いた世界は数学よりロマンチック。計算しても答えが出ない気持ちを知る。ねえ、先生、どうしてそんな顔をしてるの?でも、そんな退屈そうな顔も好き。生まれ変わったら結婚してよ。
「林、授業に集中しろ。課題増やすぞ。」
あ、怒られた。
はい、先生。貴方に集中します。

夜世瑠李 @yoruserui
視点が定まらないんじゃなくて定めたくなくて。春の息遣いだけに集中したいから。ブラーのかかった景色の中で多分、これは夢、桜を見つける。淡いピンクが包む朝焼けの匂い。風が吹くと緑の濃い匂いも混じる。でもまだ眠いの。起きるのはもう少し後でいいかな。私は土の中で、母の温もりを求め続ける。

森林みどり @midorimidori53
体があるってどういうこと?ここに存在するということは。体により規定され限定され制約される私というもの。体が無ければもっと自由に行きたいところへ行けるのに。醜くて重い体という牢獄に縛られ、身動き取れずにいる。唯一の良さは、体があるから触れ合えること、あなたの息遣いを感じられること。

雪池 @Yukittsan
味見と言ってその少し焦げ臭いシチューを口に入れた君の表情がさっと変わった。定番料理でさえうまく作れない自分にちょっとだけ自己嫌悪。聞こえたのは意外な言葉。「あなたのシチューとってもおいしい」嬉しそうに笑う君。ああ、そんなふうに言われたら、ますます君に惚れてしまうじゃないか。

森林みどり @midorimidori53
薄暗いマンションの窓から、私は赤ん坊を抱っこしたままで、向かいの家を見ていた。定刻になると、一家の主婦は大量の洗濯物を干した。なぜかいつもTシャツは首を下にして干された。私と干し方が逆さまだと思った。私は毎日見ていた。向かいの家の主婦が干したTシャツが逆さまの姿で風に揺れるのを。

黒野綯路 @High_Delight
読み取り機にICカードを押しつける。反応するか不安で、結局この癖は直らなかった。改札を抜け、最後の務めを残すばかりとなった定期券に目を落とす。時代と共に姿は変われど、変わらぬ面影がそこにある。私の帰る故郷の名前と、私の働いていた街の名前。二つを結ぶ矢印を、私は指でそっとなぞった。

藤和 @towa49666
定規を使って大きな紙の上に線を引く。こうやって紙の上に手で線を引いて型紙を作るのは、この業界ではもう時代遅れだろうか。CADを使えば複製も楽なのはわかるけれども、学生時代に習ったこの方法がなんだかんだでやりやすい。今回もきっと、いい服ができる。そう信じて紙に直線と曲線を引くのだ。

滴一滴 @teki1teki
損得勘定で動いてはいけない、という我が家に伝わる哲学を、妹は幼少期より唾棄し、常に人を値踏みし続けた。案の定、駆け引きと悩みの多い人生を送り、五十代後半に心労で倒れた。そして、死ぬ間際に私へこう言った。「私は後悔してない。だって姉さん達には見られない世界を、充分楽しんだのだから」

かっくん @kakkun4141
離婚したのは息子が5歳の時だ。調停で親権が私に決定したが、息子が寂しそうにしてたのを今でも覚えている。本当は父親と一緒にいたかったのかもしれない。そんな息子も10歳になり、今日は父親と会っている。一日中遊んで帰って来た息子が衝撃の告白をした。
「ボクね、お父さんのお嫁さんになる!」

タケイチ @TAKEiCHi140
自分たちの背丈の倍くらいはありそうな定規とコンパスを抱えた二人の少年が、砂浜に何かを作図しはじめるのを見て、初老の男はそっと顎髭を撫でた。日が暮れて、少年たちはさよならを言って別れていく。潮が満ちて、彼らの描いた正257角形は波にさらわれる。ひっくり返った砂蟹が星空を見上げている。

アスパラ山脈 @yamaasupara
「ねえねえ知ってる?」部活が終わった放課後最近ホラーにはまっている友達が話しかけてくる。定期の残高を444円にして内房線安房鴨川行きの最終列車に一人で乗ると昔電車に引かれた親子の幽霊が出るらしい「幽霊なんているわけないでしょ」と軽くあしらう。未練がましい親子め即死だったはずなのに

1月3日

温水空 @soranukumizu
定期テストの数学の補習後。山田君は私に「x2+(y−3x2−−√)2=1」と書かれた紙を渡してきた。「The Love Formulaで検索して」とかかれていたので、検索してみる。意味がわかった私はドキドキしながら「数学できるんじゃん」と呟いた。

きり。 @kotonohanooto_
短歌は定型詩だ。五七五七七。破調もあるけど、基本は定型を守ってつくる。その型のなかに、守られているような気持ちになることがある。毛布にくるまっているような、うまく動けないけどおちつく感じ。その守られた宇宙をゆく。読むときも、詠むときも。さあゆこう。魔法の言葉は、ごしちごしちしち。

森林みどり @midorimidori53
父はギター、母は畑仕事。私はウクレレ。私らみんな何らかの依存症で中毒。それをやっていないと余計なことを考え出す。思い出したくないことをいくつも思い出す。だから、今日も紛らす。夢中で行う。そうやって今日も生きていく。定めないこの世を生きる。今日も私は、ウクレレを弾いて生きて行く。

イマムラ・コー @imamura_ko
学校の授業が朝9時ぴったりに始まる。毎日毎日規則正しい生活ができていい。12時ぴったりに昼休みに入る。食事をした後13時ぴったりにまた授業が始まる。食後の眠気と格闘しながらなんとか授業を受け続け、17時ぴったりに授業の途中であろうと下校する。通っている定時制高校はほんとうにいい学校だ。

森林みどり @midorimidori53
私の中に固定された記憶。子どもの頃、玩具を買ってもらい祖母の家で遊んだ。とても楽しかった。夜、玩具を忘れて来たことを思い出し、私は急に泣き出した。両親が「また買ってあげる」と言ったけれど、私は泣き止まなかった。あの楽しかった時間が、もう二度と戻って来ないことを悲しんでいたから。

pokazo @pokapoka_pokazo
優柔不断な彼は、先のことを決めるのが苦手だ。せっかくプレゼントしたスケジュール帳も、空の四角形が並んでいる。面白半分で次の休みに「デート」と書いておいたら、本当に誘ってきた。よし来月は「高級ディナー」とでも書いてやるか、と手帳を開くと「プロポーズ」の予定が入っていた。私の誕生日。

森林みどり @midorimidori53
昨日恋人から勧められた映画を見てから、心がブヨブヨしてきてすぐ涙が出そうになる。何かが刺激されたようだ。悲しくて寂しい。こういう壊れやすい柔らかい繭のような体があって、生きているわけだけど、体がなくなったらどこかに消えてなくなるわけだけど。定めのない私の体の中にあるブヨブヨ。

藤和 @towa49666
「これも定めか」今際の際に彼はそう言った。幼い頃から難病で苦しんで、自由に動くこともできなくて、若いままもうすぐ死ぬ。彼の人生は一体どんなものだったのだろう。どう感じていたのだろう。そんなこと推し量れるはずもない。それでも最期に希望をひとつ持つ。これで彼は救われるのだと思いたい。

二度なかず @Futatabi_Nakazu
定時五分でイヴ・サンローランのリップを塗り直す先輩だったから、ふられたのはすぐに判った。「ふったんですう」突き出された唇がマスク裏を赤く汚したかどうか、差し入れた缶コーヒーから目を背けた俺に本当のところは。ジェルネイルの表面にブルーライトが反射する。表計算ソフトと絡み合う熱い夜。

たつきち @TatsukichiNo3
誕生日を迎えた年の大晦日で定年退職。仕事納め前の忘年会で花束その1を渡され、仕事納めでその2を受け取る。単身赴任先での定年。妻が引っ越しの手伝いに来た。「あらあら。お花、上手に持って帰らないと」「すぐ枯れるよ」持ち帰ったはずの花束を見たのはひと月後。色褪せぬ花に長い月日を思い出す。

大殿篭 猫之介 (おおとのごもりねこのすけ) @ponkotsu_mt
二人は恋人同士なのに互いの名も知らない。毎朝同じ車両のそれぞれの定位置に立ち、同じ音を聴きながら別々の車窓を眺め、時折短く見つめ合う。
二人が距離を縮めれば、シーソーは忽ち地に着いてしまうだろう。
別れの日。女は下車間際に初めて手を振り、察して男は手を振り返し、二人の恋が成就した。

黒野綯路 @High_Delight
いいかね、君。定位置だ。何事にも、在るべき場所がある。スマートフォンはここ。テレビのリモコンはここ。ペットボトルはここに、みかんの籠はここで、ゴミ袋はここだ。すべてが完璧な位置に収まっている。美しかろう。そしてここが僕の定位置だ。だからもう、炬燵から引きずり出す試みは諦めたまえ。

りふぇーる @riru008723
初対面の印象は【指が綺麗】だった。同僚の堤くんは、外国の血が4分の1混ざっていて、髪や瞳の色素が薄かったり、日本語の発音が少し個性的だったりする。「――査定に響くかなぁ?」と言って、長期の有休届を私に提出した彼の指先は、エリック・サティのピアノ曲のように、私の魂をf分の1揺らした。

かっくん @kakkun4141
喧嘩の弱い僕が男に絡まれている女性を助けようとしたのは、人生に絶望してやけになっていたからだ。騒ぎを聞いた警察がすぐに来てその場を収めたらしいが、僕は大怪我を負って病院に運ばれた。でも、その時の女性が毎日見舞いに来てくれる。彼女と将来どうなるかは不確定だが僕の心にも希望が灯った。

アスパラ山脈 @yamaasupara
やきにく定食が好きだ。焼肉定食ではなくてやきにく定食。がっつり肉というわけではなく、カルビが控えめに添えられていて、ウインナーとかエビフライとかがついてくる。これはやきにく定食なのか?でもうまい
店の前での事故からもう半年、毎月やきにく定食を食べに来ていたあの娘の席は空いたまま。

アスパラ山脈 @yamaasupara
「定って漢字ソンブレロかぶって走っている人に見えない?」
親友のロドリゲスが急に突拍子もないことを言う。大事な時だというのに何を言っているのか?でも言われてみるとだんだんとそう見えてくるから不思議だ。次第にこれがベストに見えてくる
僕らのメキシコ料理屋の名前が「定」に決まった。

1月2日

モサク @mosaku_kansui
「綺麗ねぇ」一月二日。田舎では正月休みの帰省にあわせ成人式をする。都会の大学に通う幼なじみの振袖姿。俺の母親も目を細める。「ね、そう思うやろ?」と聞かれて「馬子にも衣装だな」と答えた。「ひどーい、何よ赤い顔して。飲んでるの?」「俺は早生まれ。まだ19」なぜか視線が定まらず俯いた。

りふぇーる @riru008723
「買い物してたら偶然、会ってね。今は三食、隣の家では恵ちゃんが作ってるんだって。羨ましい」母は嫌味のように言う。料理は献立を考え、買い物、調理と脳を使うので老化防止になると聞き、母が恵ちゃんのおばさんのように認知症にならないよう、私は料理をしない。親孝行の規定に従ってるのにな。

かぼすサワー @BDJklv0wXT3eC6y
同僚の顔を立てるだけ、今回だけと分からせる作戦。
「いらっしゃい。あっ、定夫君お疲れ様、カウンターでいいかな?」
「もちろん。いつもの」
「ビールとニラ増し餃子入りました」
すいません、と隣の人に言いながら座ると、同じメニューが目に入った。横目で顔を見る。
「どど、どうします?明日」

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
毎週土曜の朝十時、決まって彼は父親と現れる。八番テーブルは定位置。いつものハンバーグ一八〇グラムではなく二四〇グラムを注文した日、バイト仲間と「食べ切れるのか!?」とバックルームで盛り上がったものだ。赤の他人の常連さん。君の成長を楽しみにしているのは、何も家族だけではないんだよ。

MEGANE @MEGANE80418606
「この婚姻は生まれる前から定められたもの」女は、着物の袖で顔を隠す。泣いているのだろう。数回、顔を合わせただけの男の妻にならなくてはいけないのだから。すまない。女は袖をおろす。「こんなに嬉しい定めはありません」昔と変わらず愛らしい笑みを浮かべる女、否、女房に俺は二度目の恋をした。

大殿篭 猫之介 (おおとのごもりねこのすけ) @ponkotsu_mt
ただの白紙を恋文として、封筒の裏側にめかした文字で吾が名をしたためる。
教科書の束に忍ばせ小脇に抱え、休み時間の廊下を歩く。すれ違い様に千鳥を踏んで彼に軽く接触し、やや大袈裟に床に撒いた。優しい手がまんまと封筒に伸びる間に、ドジな私は謝りつつ足早に去る。
と、ここまでは定石どおり…

滴一滴 @teki1teki
「定番って言葉は、人気商品の商品番号が一定であることに由来してるんだ」と自慢気に語るカレシのトリビアに、私は素直に感心し「人間の定番商品って何だろうね」と問う。巨乳とか、美かな、という私の意見を彼は否定し「精神的な安定」と答え、直後、私達はその答えに思わず吹き出し、そして微笑む。

石森みさお @330_ishimori
部屋の灯りを落とす。家人の寝息は規則正しく、加湿器の唸りと調和している。一月一日のただの夜更けに、奇跡は起きず物語も始まらない。換気で細く開けていた窓を閉じれば、部屋は安全に守られた箱。壁の隙間に這うシダを想い、寝そべる獏を撫で、カーテン越しに銀河を視た。不定の咳払いが星を払う。

黒野綯路 @High_Delight
よもや、我が棺を打ち砕く者が現れようとは。定命の者よ、吸血鬼の王たる我を揺り起こし、何を欲す。貴様も不老不滅を望むか。ならばその血を供物に……何? アンドロイド? 我、最後の人類? 待て、では血は、血は誰から吸えばよいというのだ。血も棺もないとなれば、我は一月と生きられぬのだぞ!

1月1日

さく @saku_sakura394
父が定年し家にいる。テレビの前で母が作る朝昼晩の食事を待つだけ。母のイライラは増していく。しかし私達のために40年も働き続けたのだ。ゆっくり過ごしていいと思う。「父に優しくしてあげて」私は母に進言した。その後私は結婚し夫の定年を迎えた。あの日の私に伝えたい。「母に優しくしてあげて」

一見 才 @SI_hitOmi_NoveL
人間は表面と切り取りが好きだ。表社会の顔を量産し、定義付けされた情報を都合のいい様に解釈して、勝手に満足する。マズい部分は事実を希釈して嘘を練り込む。人間はこのアメが好物なんだ。嘘は自分を守ってくれるからね。
『神様の調合』57頁。これ、テストに出るよー。

一見 才 @SI_hitOmi_NoveL
ピンチになった人生。グリコのポーズで地に足つかない宙ぶらりんが定められた運命。そんな僕らを支える唯一の金具も時間の経過と共に大分変形してしまった。風に煽られ、知恵の輪が解ける。グリコのポーズで空を飛ぶ。両耳に風の音が吹き抜ける。

アパートの影から抜け出した僕を、陽が暖かく包んだ。

冨原睦菜 @kachirinfactory
算数や図工の時間、きっちり正確に線を引いたり長さを測るのが得意だった。だから定規をびよんびよんしならせて遊ぶのが流行っても、真っ直ぐ線を引けなくなるからやれなかった。そうして四角四面のカタブツと囁かれる大人になり、いつしか野菜もボールも貴方の体も触れると角張っているようになった。

東方 健太郎 @thethomas3
春もうららに過ごしておりました。宴もたけなわとは、まさにこのことか、と、他人の花見を眺めておりましたところ、一人の老女がふらふらと身体を揺らしながら歩いております。どこ吹く風たちを横目に、一心不乱に杖を鳴らしておるその姿は、さながら、祈りを告げる魔女のよう、これも定めでしょうか。

メイファマオ @molmol299
放浪癖のある兄は生存確認の為か、定期的に葉書だけを送って寄越す。
以前は一言二言絵葉書に添えていたのだけれども、最近ではそれすらもない。
ある日警察から連絡がきた。
身元不明の行倒れの持ち物から家宛の葉書が出たらしい。
久々に対面した兄は安らかな顔で最後の絵葉書も綺麗な青い空だった。

タロタロ・セイ @akaiaoku
「山に登ってる夢を見た」「それは富士山ね」「しかも全身真っ青な奴と一緒なんだ」「それはナスね」「お前また寝てる間に変な事したろ?」「うん!ずっと富士山富士山富士山、ナスナスナスって耳元で囁いてた」「たまには否定しろよ…まったく、何が楽しいのか。鷹の考えている事はさっぱり分からん」

タロタロ・セイ @akaiaoku
「私は不思議に思う」「何が?」「突然皆んな神社に行く。長い行列作ってさ、杓子定規に2回礼して2回手を叩いてごにょごにょ言って1回礼して帰る」「神様へのご挨拶だよ!お賽銭投げて願い事する神聖な儀式だよ!」分かんないだろなぁ。いつも天使の様に飛んで行っては綺麗な声でねだる鳥の君には。

せらひかり @hswelt
定められた通りに、日を刻む。一日を始め、きちんと終わらせる。四角四面な家族の間で、こっそりと見知らぬ子ネズミにパン屑をやり、定められない果実をもらい、種を庭におとす。いつか定められた通りに家を出て、けれど定められない道を行き、珍しくもない日々を送る。見知らぬ未来に目配せをする。

滴一滴 @teki1teki
漫研部に所属していた頃、定規を使って銃を描いていたら、先輩から「自分で定めた線を描け。定規に定められた線を描くな」と怒られた。後にそれは独自の言葉ではなく、某漫画家の言葉の流用だとわかるのだが、とにかくそのようにして、先輩も私も、自分で定めた線を描くよう、定められたのだった。

MOTOM(サイトからの投稿)
 男は定型を捨てようとした。「分け入つても分け入つても青い山」と。しかし、妄想に女人が浮かぶ。「洗へば大根いよいよ白し」と。どうすればこの世を捨てられるのか。
 妻子を捨てても自分はまだ生きている。杖を捨てても身に染みた定型の影をひいてしまう。
 山頭火は、また泣いていた。

探偵とホットケーキ(サイトからの投稿)
定められたものは退屈だ。婚約者も全て定められている僕は、某国の王子。外出すら許されない。其処で僕は命がけで城を脱出した。初めて鼓動が高鳴る経験をし――そして、心臓が止まる思いをした。誰も僕の名前すら知らなかったのだ。すべてが親の、「僕を閉じ込める首輪がわりに吐いた嘘」だったのさ。

hazuki @pmableo
父の決めた結婚は決定事項だった。全く知らないこの人を私はこれから愛せるのか?自分だけが世界一不幸な気がした。だけど隠れて泣いていた私を彼は見つけ、手を繋いでくれた。彼の手は震えていた。青い顔のまま必死に手を握ってくれた彼を見て、何だか冷静になれた。この結婚を受け入れようと思った。

黒野綯路 @High_Delight
初めての企業面接。私が受けるのは大手ではないけれど、自分の夢のためにはベストな環境だと判断した。スーツには皺一つない。髪型に口臭、適当だった敬語だってちゃんと直してきた。そんな私は今、焦っている。場所、間違えた? 時間が迫っているのに! 『定礎』なんて会社、私知らないんだけど!?

久保田毒虫 @dokumu44
「過剰思考」と「非過剰思考」の間には一体何があるのか。両間には底知れない深淵があるように思えてならない。それは客観的観測において常に変化するだろうし、主観的観測はあてにならない。一体何を信じれば良いのか。こんな不確定な世の中。でも俺はただ生きる。ただがむしゃらに生きてやるのだ。

久保田毒虫 @dokumu44
こんなニュースを聞いたよ。やれやれ。1000匹のズワイガニが打ち上げられたらしい。でもその内999匹は既に死んでいたそうだ。こんな風に私の人生もあっけなく終わってしまうのかな。人生は不確定だ。今のうちに生きておかないと。生き急ぐなと言われても生き急ぐよ私は。君も一緒にどうかね?

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