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子どもの未来を拓く”学びのタネ”を信じる勇気:変わる学校での取り組みで感じた事

1 はじめに

「今の子ども達が、これほどの可能性を持っているなんて!」学校での実践内容を読んで思わず涙ぐんでしまう程、胸があつくなったのは久しぶりの事でした。

タイトルにも載せた「RITA」という冊子の15号では、私自身が灘中で取り組んでいた家庭科での”探究学習”の内容も最終ページに掲載していただいています。その関係で冊子をいただいたのですが、そこに載っていた他の高校の取り組みがあまりにすごい内容でショックを受けました。
(内容は全てこちらから、ご覧いただけます。)

2 高校生の社会参加

今号で最初に紹介されているのは農林高校での取り組みです。実は数十年前、家庭科教諭として採用された時、初任で勤務したのが農業高校だった私にとって、この取り組みは衝撃とも言えるものでした。

最近では変わっているのかもしれませんが、当時、農業高校には実家が農家の子ばかりでなく、いわゆる偏差値も学習意欲もあまり高くない普通の家庭の子もいました。
その子達の大半は自己肯定感が低く学習だけでなく学校生活全般に対しても意欲が低いように見受けられ、教師になりたてだった私はどう接していいか分からず彼らに対して将来性を見出せないまま、とりあえず必死で授業や実習をこなしていました。

その状況の中で農業高校という特色を生かし地域との連携は盛んに行われ、農家の手伝いや特産物の加工現場での体験など生徒達を引率する「社会参加」の機会には本当に恵まれていたと思います。

ただ、そこで問題になるのは生徒達の”モチベーションの低さ”と”やる気のなさ”でした。自分自身が進学校の出身で高校時代は受験勉強三昧。大学に進学してからは家庭科の授業や実習の指導の事ばかり勉強し頭でっかちになっていたので、実業系の高校で、どんな風に生徒達の動機付けを促し意欲を引き出すか、見当もつきませんでした。

しかも農業高校などの実業系の学校は実習が多く、他の先生方にゆっくり相談する時間も取れない状態で、ずるずると学校行事の中の「生徒達を引率して社会に出る事」をこなしていました。

3 胸があつくなる程の衝撃の理由

この冊子を読み「なぜ、こんなに胸があつくなって切なくなったのだろう?」と自分に問いかけた時、よみがえって来たのが2に書いた農業高校での自分の姿だったのです。

私は当時生徒達にとって、せっかくの「社会参加」の機会に価値を見出せず、生徒達の成長のチャンスに変える事が出来なかったという事に
今さらながら気づいたからです。

それだけでなく、この冊子に出て来る「学びのタネ」について触れた記事で更に自分の浅はかさを知りショックで涙が出そうになったのです。

学校現場が長くなると学校での成績や評価で生徒達の将来の人物像を描き彼らの可能性を広げてイメージする事に制限がかかります。

・きっと、この子はこんな仕事には
    向かないだろう。
・多分この子がこういう事を続けていくのは     
    無理だろう。
・おそらく、この子がこんな道に進んでも
     挫折するだけだろう。
     こんな具合です。

それを大きく覆してくれたのが、この冊子の『「学びのタネ」の大切さに気づかせてくれた生徒たち。』という記事でした。学校生活の中で、ふとしたきっかけで触れた事・出会った事・経験した事が、生徒達の未来につながり、卒業当時のテストの点数などでは想像できなかったような仕事に就き、自己実現をしているという事実は本当に衝撃的でした。

それと同時に、こういう先生方が学校にはたくさんいらして”生徒達を見守り育て続けて下さっている”という現状に胸があつくなりました。

4 「学びのタネ」を信じる勇気

不思議な事に子どもが成長し、高校生位になればなるほど、周りの大人が考える”その子の成長の伸びしろ”は小さくなるような気がします。下手をすると本人も含めて、将来に対する「諦め」や「妥協」などが出て来て、なかなか未来での成長を信じる勇気が持てないように思います。

ただ学校生活の中で子どもが何かの機会を通して得た”学びのタネ”は、たとえ一時期、その子の中でなりを潜めていても、何かのきっかけで必ず開花していくのだろうと思います。

また他の誰に「そんな事は無理だ」と未来の可能性を信じもらえなくても「その分野では君には将来性がない」と言われても、自分自身が自分に中にある”学びのタネ”を信じて行動してければ、必ず未来につながるのではないかと思います。

この冊子は、その事を裏付けてくれたように思います。

その昔、進学校で猛烈な受験勉強をしていて家事など全くせず、家庭科の実習でもひどい点数しか取れなかった私に対して家庭科を受け持って下さった先生は「あなたに家庭科の教師は無理!もしなっても、きっとすぐに辞めるわ!」と断言していました。

ただ私自身は「自分が苦手だからこそ、そういう生徒の気持ちが分かる家庭科教師になれたら」と考え自分を信じる事にしたのです。その根底にあったのは中学の家庭科で体験した”豆腐作り”の面白さと調理実習というグループで”モノづくり”をする楽しさでした。食品加工で「ある素材(大豆)が一定のプロセスを経て他の食品(豆腐)になる」というのは中学生にとっては
本当に魅力的で”学びもタネ”となりました。

さらに高校で家庭クラブ:FHJ(Future Homemakers in Japan)でリーダーとなった事でクラブのメンバーと共にホームプロジェクト活動を行い、県大会まで出場した経験も家庭科教師への道を後押ししてくれました。

現在のPBL(Project-based Learning:プロジェクト・ベースド・ラーニング)には足元にも及びませんが、身近な暮らしの中で課題を見つけ、その解決のために対処法を考え、計画を立て実践するという経験をチームで行い
大きな大会でプレゼンテーションをする機会を得られたのは貴重な経験でした。地域では有名な超進学校で”家庭科クラブ”という大学受験には関係のない活動にのめり込んだのも、ベースに”豆腐”から始まった”暮らしの中の事象は面白い”という「学びのタネ」があったからだと思います。

5 まとめ

今回の記事で取り上げた冊子には、農林高校という特別な学校だけでなく普通高校で「地域共創人育成プロジェクト」に取り組む学校の取り組みなども載っています。

さらに以前の勤務校でもあった灘高の「ニューヨーク・ボストン合宿」の記事も読みごたえがあり、高校生の社会参画が、いかにキャリアデザインにつながっていくかの一例としても参考になるのではないかと思います。

ここでは高校での取り組みを中心にして書かせていただきましたが、退職後も何かのカタチで”子ども達にとって明るい希望の持てる未来にしていくために”何かをしていきたいと思い、下記のような活動をしています。よろしければHPをご覧ください。


〈終わり〉