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「何のための10代?」今を生きる子ども達の”モチベーション”と大人の関わり

1 子ども達のモチベーション

「先生、やりたい事は何もありません。」
高1の最初の家庭科の授業で高校生活でやりたい事や目標などを考える課題を出した時、生徒が言った言葉です。その子だけではなく他のクラスでも同じ事を聞き、ショックを受けた事が昨日の事のようによみがえります。

 高校時代は社会に出て自立するための準備期間。生徒それぞれに将来進みたい道は違っていても「何らかのモチベーションを持ち高校に進学し、これから始まる高校生活への期待に胸を膨らませているはず🎵」という期待が大きく裏切られ、当時は本当にショックでした。

多分当時の私だけでなく、子ども達には「どんな事であれ興味や関心のある事に“モチベーション”を持って主体的に取り組んで欲しい❗️」そう願う大人は多いと思います。

一昔前は子ども達にモチベーションを持たせたり高めたりするために、きっかけとなるような環境づくりや子ども達へのタイミングを見計らった働きかけを周囲の大人達は自然にやっていたのではないかと思います。ところが今は教師・保護者・習い事の指導者など子どもに関わる大人達が“子ども達のモチベーション”に過剰に関わり過ぎているような気がします。

・いかに子ども達にモチベーションを
    持たせるか?
・どうやって子ども達のモチベーションを
     上げて行くか?
・どうすれば子どものモチベーションを
     維持させる事が出来るか?

それは、こういうフレーズがネットの世界にあふれ、大人達があの手この手で子ども達のモチベーションを大人が理想と考える状態に持って行ける(幻想を持たせる?)テクニック等が紹介されているからかもしれません。

では子ども達はそういう流れに乗り、大人の望むような状態になっているのでしょうか? 

今年の3月まで学校現場でいろいろな子ども達を見て来た限りでは、何かにモチベーションを持ち、やる気と向上心にあふれ、毎日を生き生きと過ごしている子どもばかりには見えませんでした。

退職後にいろいろな場に参加して話を聞いていると、人生100年時代”となり子ども達の「生きる事へのモチベーション」「子ども時代、特に10代で何かに真剣に取り組む事へのモチベーション」は変化してきているように感じます。

先日参加したコーチング関連の講座では「モチベーション」をテーマに学校や民間教室など子ども達の学びの場に関わる参加者の方々といろいろな経験をシェアしました。その場で様々なエピソードを伺った事で”子ども達のモチベーション”について漠然と感じていた事がはっきりし「今のままでいいのだろうか?」と考えるようになりました。

”子ども達のモチベーション”について、今を生きる子ども達と向き合う方々にぜひ一緒に考えていただければと思い、講座を通じた気づきや考えをまとめました。何かのお役に立てれば幸いです。

2 モチベーションへの期待

「モチベーション」という言葉は人によってイメージは様々かと思いますが一般的な定義としては次のようなものがあげられます。

モチベーション(motivation)とは、「やる気」「意欲」「動機」などの意味で用いられる表現。主に「行動を起こす契機となる刺激や意欲」といったニュアンスで用いられる。「特にやる気もないし必要に駆られているわけでもない」というような状況を指して「モチベーションがない」と表現したりする。〈weblio辞書より引用〉

大人にとって理想的な子ども、特に小学校高学年から大学生までの10代の子どもは「モチベーション高く何かの夢や目標に向かって日々充実した暮らしを送っている」子達かもしれません。

そういう子達は問題行動に走ったり、変に反抗的だったり、何を考えているか分からず不安になったりする事が少ないからです。その夢や目標が具体的であればある程、大人からすると協力や援助もしやすくいい関係を築きやすいと思います。

逆に「モチベーションがない」或いは「とても低く、やる気がまるで感じられない」ように見える子に対して大人は「何とかしなければ!」という気持ちになりがちです。特に月謝や授業料が必要な塾や学校や習い事等では、スポンサーである保護者が子どもの「モチベーションを上げ、それを保つ事」を期待するのは当然かもしれません。

さらに子どもの周囲の大人が「無気力・無関心・無感動」な状態の子ども達は社会に出てからの適応や社会的な自立などが心配だから「何とかモチベーションを持たせる事」が必要という考え方が根底にあればなおさらです。

確かに子ども達が「モチベーション高く」学びや何かの技術や知識の習得に取り組んだ時は想像をはるかに超えた結果が出る事があり、この「モチベーション」というのは子ども達を取り巻く大人にとっては何とかして”持って欲しい” ”高めて欲しい”ものかもしれません。

だからと言って全ての子どもがそうなる必要はなく、そもそも「10代というは自分が興味や関心を持てる何かを探し、試行錯誤しながら自分なりに何かに取り組み、それを”ひたすら”続ける事が出来る貴重な時期」ではないかと思うのです。

その”何か”がすぐに見つかる子もいれば、なかなか見つからずにもがく子もいる、その逆に見つける事に必要性を感じず、ぼーっと過ごす事を良しとする子もいるのだろうと思います。

本来、子どものモチベーションは誰かに誘導されるものでも、強制されるものでもなく、子どもと関わる大人はそっと見守りながら、子どもが少しでも関心を示した事に対して、その世界の入り口まで連れていくような役目で十分ではないかと思うのです。

それなのに「やる気さえ出せば、うちの子はすごいはず!」「モチベーションさえ高くなれば勉強もスポーツも何でもこなせるはず!」というようなモチベーションへの過大な期待が社会に広がり、大人も子どもも、その影響を強く受けてしまったのが今の状況かもしれません。

3 子どもの自主性とモチベーション

先日参加したコーチング関連の講座で他の方々の”コーチング”と関連した数々のエピソードを聞いている時、強く感じたのは「子ども自身の自主性や主体性」とモチベーションの関係でした。

例えば、忘れ物をする子どもに対して働きかける時、習い事の時間に全くやる気が見えない子どもに対応する時など子どもの主体性を尊重し「子ども達が自分で考え行動する」ように持っていくためには大人の”指導”ではなく違う関わり方が必要となります。

「忘れ物をしないよう子ども自身にどうすればいいか考えを聞く」「どうしてやる気が出ないのか子どもの感じている事や思っている事を言いやすい環境を作り耳を傾ける」など講座で伺ったエピソードから”指導ではない違う関わり方”の大切さを痛感しました。

これらの関わり方はコーチングに通じる所があり、聞き手の側がどんなタイミングで、どんな言葉かけをし、その反応に対してどういう気持ちで受け取り、どう子どもの行動が変わるように持っていくかで子どもへの影響の大きく変わるだろうと思います。

これまでの「〇〇しなさい」「もっとやる気を出しなさい」というような大人が考える問題行動に対する解決法や叱咤激励などを一旦脇に置き、これからの時代は子どもの自主性を大切にし子どもの考えや意見に先入観や偏りのない見方や感じ方で接する事がとても大切になって来るのではないかと感じました。

そして、そのための子どもとの関係づくりや子ども自身の考えや意見を引き出すための問いかけや言葉かけがより大事になり、コーチング手法などが広がる事が望まれるのではないかと感じています。

4 10代の子とモチベーション

子ども達の中でも小学校高学年から中学、高校、さらにその先の進路や社会までを含み10代の子というのは本当に幅広く多様です。ただ一つ共通項があるとすれば、個人差はあるにしても”思春期”という精神面でも身体面でも自分を持て余してしまうようなとても難しい時期を経験しているという事かもしれません。

その10代の子達が社会に出てからの進路や人生の過ごし方・生き方等に対してどんなモチベーションを持ち、どう日々を過ごすかについて、昔々は社会全体がもっと寛容で子ども達の周りの親や教師や大人達ももっとゆったりと構えていたように思います。

それが変わって来たのが高度経済成長期の頃からではないかと感じます。その子の個性とかこだわりとか特性とかよりも学歴をつける事が人生の”勝ち組”の必須要件になり親子で目の色を変えて勉強に取り組む家庭が増えて来たからです。

この時代の10代の子のモチベーションは”バラ色の未来”を手に入れる事。そのためにどれだけ成績を上げて有名な学校に進学するかで人生が決まると信じられていた頃です。今でも学歴偏重の考え方をする人はいますが”バラ色の未来”の基盤になる終身雇用制が実質的に壊れてしまった現状では「高学歴」は以前程の影響力は持たないようです。(むしろ中退の方が好まれると聞いた事もあります)

そして今、子どもが自分の”好き”を見つけ、”好き”な事にひたすら集中したり没頭したりする事が大切と言われ始めると、子どもの周りの大人達は”好き”を探す種まきのためにいろいろな環境を提供しようという傾向があるそうです。

リアルでもオンラインでも子ども達が学ぶ場は雨後のたけのこのように本当にたくさん出来ています。さらに習い事の種類も増え、学習塾もバラエティ豊か。お金さえあれば子ども達のスケジュールはすぐに毎日埋まってしまう程の多様さです。学校生活に加え、塾や習い事、さらには友達付き合いも兼ねたゲームや動画の視聴、スマホなどでのやり取りと10代の子の忙しさは想像を絶します。

その状況の中で子ども達はいつ、どこで、自分と向き合い自分のしたい事や自分が好きな事を探し、それに時間をかける事が出来るのでしょう?記事のタイトルに『何のための10代?』というフレーズを入れたのは、この疑問が頭からは離れなかったからです。

私にとって10代は「自分自身と向き合い、将来の理想の自分をイメージしながら今を生きる」大切な時期で、その自分としっかりと向き合うという時間を十分に取れないまま”モチベーション”ばかりを持たせたり、高めようとしたりする事に強い違和感を感じています。

特に自分が家庭科の授業を通して超進学校から底辺校と言われた農業科、通信制高校などで生徒達と接して来て、自分とちゃんと向き合う時間を取り自分の中に人生のコンパスのようなものを持っている子は自分なりのモチベーションを持ち、そのモチベーションをうまくコントロールしながらバランス良く学校生活を送っているように見えたからかもしれません。

10代の子とモチベーションについてはいろいろな考え方や意見があると思いますが、ここでは私見をまとめさせてもらいました。

5 まとめ

ここまで、主に10代の子とモチベーションについて、特に大人達がどうかかわっているかに焦点をあてながらまとめてみました。このテーマは何か正しいやり方や正解があるわけではなく、それぞれの人で考え方も大きく違うのだろうと思います。

ここで書いた事は私個人の感じている事や気づきですが、お読みいただいた方が、もし、ご自身の周りの10代の子達と接する時に何かの参考にしていただければとてもうれしく思います。

長文をお読みいただきありがとうございました。私自身は今年4月に退職し学校を離れ、今はマイクロスクールでインターンをしながら「10代の子の子育て安心ナビ」として子育てに関わる情報やヒントのシェアをしています。これからも様々な講座やセミナーなどに参加して少しでも子育てに役に立つ情報をお届け出来ればと思っています。

(活動内容等につきましては下記のHPをご覧ください。)