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自分の興味・関心から考える「探究のテーマ」:テーマ決めに悩む生徒のためのアイデア例

1 テーマ決めの難しさ

「どんなテーマにしたらいいか分かりません。」在職中、探究学習に取り組んでいた時、生徒達から言われて一番悩んだ質問です。学校などで探究学習を入れようとするとき、最も難しいのがテーマ決めではないでしょうか?

短時間で決まる子もいれば、とても時間がかかかる子もいます。かかった時間の長短とは関係なく探究学習が子どもにとっての成長につながるためには自分で決めたテーマが自分事に出来て探究を深めていける事です。

そこで「テーマが決まらない」「どんなテーマにしていいか分からない」という子どもに対して自分自身の興味関心と向き合うために探究学習のテーマ決めへの導線として取り入れらるワークを考えてみたので紹介させていただければと思います。

ワークについては取り組みやすいようにスライドを作成しスライドの画像を挿入しながら文章で説明する形式にしました。(対象は小学校高学年から中学生までなので出来るだけ平易な言葉を選んでいます。)

私自身は退職し学校を離れた立場なので実際にワークをやった事はありませんが何かの形で探究学習に取り組まれている皆様のお役に立てればいうれしく思います。(このワークを取り入れる場合は学びの場の実情に合わせてアレンジしていただければと存じます。)

2 興味・関心探し

探究学習を自分事に出来るようにするためには「自分の興味・関心がどこにあるのか?」をベースにテーマを決め、次のようなステップで学習が進んでいくのだと思います。

  1. 問いを立てる(自分が疑問に思った事を問いにしてみる)

  2. 探究につながるように問いを磨く(リサーチクエスチョンを導く)

  3. 社会の問題点や今までの取り組みなどを参考に自分なりの考えをまとめる。(仮説を立てる)

  4. 調べたり試したり、自分なりにいろいろ探究を深める

  5. 探究をしてきて出て来た内容をまとめる(データや実験結果、アンケート内容やリサーチ結果などを表やグラフにしたり、分かりやすくまとめる)

  6. 整理した事やまとめた事を元にして、今後どうなっていくのか自分なりに考えをまとめる。(社会の問題と合わせてまとめた場合は問題に対する解決策や対処法を調べたり自分で考えたりしてみる)

  7. 自分が取り組んだ内容を他の人に知ってもらえるよう発表が出来るように資料などをつくる。(プレゼンテーションの準備をする)

  8. いろいろな人に自分の探究の内容を知ってもらい探究を深めていく。

これは「課題研究メソッド」という本を参考にまとめたものです。

参考文献「課題研究メソッド」

これらのプロセスがスムーズに進んで行くためにテーマ決めは大切にしたい所です。それは探究学習の質に子どもや達の探究への意欲や主体的な取り組み、さらには探究学習を通じた成長に影響するからです。

でも一部の子ども達には、自分自身への興味が薄い・あまり考えた事がない・好きな事や面白いと思える事が思い浮かばないという子も見られます。そのような子ども達には無理に何かのテーマを決めさせる前に少し時間をとって自分と向き合う時間をとってもらう事で、その子が本当にやってみたいと思える探究学習のテーマへとつながる可能性が広がると思います。

ここでは、テーマがなかなか決まらない子が「自分とつながる」「自分の事を目で見える形で考えていく」事でテーマを決めていけるようワークを組み立ててみました。

オリジナルスライド①


オリジナルスライド②

では「自分のどんな事とつながるのか?」「どう目で見える形にするのか? 」について「進化思考」という本に出て来る考え方をベースに次のような図をつくってみました。

中央に【例:自分】と書いていますが、ここは「自分の名前」を入れてもいいし、例をはずして「自分」と入れてもいいかと思います。「好きな事」「興味のある事」などでもOKです。子ども達がより書き出しやすい言葉選びが大切になります。

参考「進化思考」

上の図でこれからの自分これまでの自分はそのままの意味ですが、自分をつくっているもの・事自分と関係があるまわりのもの・事というのは説明が必要となります。

このワークの書き出しに正解や必ず書かなければならない内容などの制限は一切ありません。それをまず伝えて欲しいと思います。

このワークの目的は自分の興味・関心と自分自身がつながる事です。でも子ども達は解答例を求めたがります。なのでまず次のように伝える事が出来ればいいかと思います。

  • この図に書き出す言葉は思いついた言葉なら何でも大丈夫。

  • 正解はないから自由に書き出そう。

  • ただ他の人が見るから見られても大丈夫な事にしよう。

次は自分を作っているもの・事、自分と関係があるまわりのもの・事についてです。この2つについては次のような例をあげてもいいと思います。

  • 自分を作っているもの・事:自分の内側、中身、自分を形づくっているものや事を考えてみる。例えば、自分が好きな事。やり出したら止まらない事。習い事や塾など自分がやっている事。自分の特技やこれからやってみたい事。自分の体の中で好きな所、もっと変わったらいいのにと思う所。自分の髪型や体形、よくやるくせ。自分の考え方やいつも気になる事等。

  • 自分と関係があるまわりのもの・事:これは5W1Hで考えると分かりやすいです。WHAT:自分が好きな物。いつも手放せないモノ。頼ってしまう道具。それがあると安心できるもの等。WHO:自分を支えてくれている人。よく遊ぶ相手。信頼している人など。WHERE:自分がよく行く場所。落ち着ける場所。何かある時に思い出す場所など。WHEN:自分にとって好きな時間。落ち着く時間。永遠に過ぎて欲しくない時間。いつも気になる時間。HOW:何かに対して自分が取り組む方法。まわりとのコミュニケーションの取り方。友達との接し方。家族との接し方。勉強の仕方。スポーツや音楽、ダンスなど自分の趣味や特技に対しての取り組み方など。WHY:これまで出したものや事について、なぜそれが気になるか、それは自分にとってどんな意味を持つのかなど。(この項目に関しては時間がある時やってみると本人がいろいろな事に気づける可能性が広がります。字の色を変えたり付せんの色を変えたりして、他の項目とは違う書き方をする事をおすすめします。)

① ワークの時間管理

このワークはじっくり時間をかけるより時間を決めて直感的に言葉を出していく方が自分が思いもかけないような内容が出て来る可能性があり、子ども達もゲーム感覚で楽しめると思います。1つの項目に対してかける時間は数分で学びの場の実情に合わせて設定してみて下さい。

② 作業中の注意点

ワークで書き出すのは言葉にしましょう。探究学習のテーマ決めが目的なので言葉で出した方が次のような利点があります。

  • 他の言葉と言い換えがしやすい

  • 他の言葉とつなぎやすい

  • 気づきを促しやすい

3 自分の見つめ直し

ここまで作業が進んだら整理してテーマ決めにつないで行きましょう。
まずは出て来た言葉を改めて見直し気になる言葉をキーワードとして3つ選んでもらいます。  

①キーワード出し

オリジナルスライド④  

②ワードの数

ここで3つと書いているのはテーマ決めを出来るだけ自分事にしていくため選択肢広げるためです。3つも選べないという子は1つでも2つでも大丈夫です。その子にとって探究学習への意欲が損なわれないように出来ればいいと思います。

オリジナルスライド⑤  

③キーワードの活用

次に選んだキーワードについて深く堀り下げてみましょう。時間がない場合はこの時点で子どもが選んだキーワードを元にテーマ決めをしていく事も可能です。

オリジナルスライド⑥

このワークでは自分について書き出した時の4つの点を使い今度はキーワードについて書き出す作業を進めていきます。

4 キーワードの深堀り

下の図の「例:キーワード①」の所に子どもが選んだキーワードをひとつ書き出します。

自分について書き出した時のように今度はキーワードについて、過去のこと(これまでの歴史をさぐってみる)、内側のこと(中身の構造など小さい要素に分けてみる)、まわりのこと(それを取り巻く物や事など、それと関係のある事を書き出してみる)、未来のこと(それはこれからどうなるのか考えて書き出してみる)について思い浮かんだ言葉を書き出してもらいます。

検索できるデバイスがあれば自分で考えるだけなく、自分で調べた事を書き出してもらいましょう。

オリジナルスライド⑦

キーワードが2つ以上あれば⑦のスライドを数に合わせて作成し同じ作業をしてもらいましょう。

①4つの観点

子どもが自分が選んだキーワードの興味を持ち書き出すスペースが足りないようでしたら、次のようにそれぞれの観点について大き目のスペースを用意してもいいかと思います。

テーマは決まっていなくても、この時点で探究学習は始まっていて書き出す言葉は後で大切な気づきをもたらせてくれるからです。(もし使用するなら、すべての図に自由に書けるようにバラバラにして子どもには渡しましょう。字が小さく見えにくくすみません。)

この4つの観点は大人でも得意・不得意があり、たくさん言葉が出て来る観点もほとんど出て来ない観点もあります。

4つあると均等に出したくなるかもしれませんが、それが子ども達のストレスになる可能性があるので「思いついた所に思いついた言葉を入れていくだけでいいよ」と伝えてあげると楽しんでワークが出来るかと思います。

オリジナルスライド⑧


②オプションでやってみよう

時間があれば書き出した言葉を整理する作業をするとテーマを決めやすくなると思います。

オリジナルスライド⑨

5 テーマ決め

いよいよテーマ決めに入っていきます。その時気を付けて欲しいのは子ども達が自分が選んだキーワードを深堀りし、さらにキーワードから書き出してみた言葉全体を広い視野でみる事が出来る工夫です。自分が作業した内容の全体を俯瞰して、そこから気づきを得る事が出来るような配置をすると効果的です。

オリジナルスライド⑩
オリジナルスライド⑪

作業はここまでです。

この時点までくれば子ども達の中に何かに対する疑問や自分なりの考えなどが出て来ていると思います。それが言葉として出て来ない時は指導をする方が、その子に気づきや感じた事など問いかけながら、それを元にしてテーマ決めに持っていく事が出来ます。

オリジナルスライド⑫

6 今回使った思考法

①進化思考

今回作成したスライドや記事でまとめて来たワークの内容は「進化思考」という本の思考法をベースにし子ども達向けにアレンジしたものです。進化思考の本には50のワークが掲載されていますが、その内容をベースに子ども向けにアレンジしてみたものです。

「進化思考」自体に興味を持っていただいた方は実際に本を手に取ってお読みいただければと思います。探究学習のヒントやアイデアになる事がいろいろ見つかると思います。

②マップ

今回スライドで紹介させていただいた図は下記のような時空観マップをアレンジしています。解剖・生態・系統・予測という4つの言葉が出てきていますが子ども達にとっては分かりにくいかもしれないと思い別の言葉で言い換えて作成しました。
このワークに関心を持っていただき実際にどこかの場で取り組まれる場合は、そこでの子ども達に合わせた言葉を用いていただければと思います。
 

「進化思考」より


7 まとめ

長い文章をお読みいただきありがとうございました。今回自分でやってみた事もない内容のワークを紹介させていただく事に迷いがありましたが「探究学習に進化思考という思考法を取り入れてみて欲しい」「子ども達に時空観マップの4つの観点での対象とするものごとの整理の仕方や考えのまとめ方に触れてみて欲しい」という思いで投稿させていただきました。

内容も手順も改善の余地が多く実用的ではない部分も多いかもしれませんが、お読みいただいた方のj何かの参考にしていただければ幸いです。
(終わり)