2022年 上半期よかったアルバム

フォロワーさんがやってたので僕も羅列してみます。

新譜編

Dawn FM / The Weeknd

ディストピアのワクワクポップス。前作のBlinding Lightsのような突出したシングルはなかったのだけど、全編通してこのダーク&レトロなシンセ世界を心ゆくまで楽しめる。今の時代にわざわざ歌うま人(うたうまんちゅ)がトータルアルバムを丁寧に作ったところ、そして何よりこの世界観を最後までしっかりやりきった点がとても好き。

Dragon New Warm Mountain I Believe In You / Big Thief

オ・ヤサシ・フォーク。Big Thiefはこの作品とメンバーであるAdrian Lenkerのソロ作しか知らないので詳しく批評できないのだけど、この人の作るメロディに自分はとことん弱い。というか、並大抵の人類はあれに勝てないんじゃないかと思う。でもそれ以上にジャケで、焚き火を囲むティラノサウルスがたいへん良い。この時点で名作になるのは確定していたといえよう。

For Trainspotters Only / Ann Eysermans

ディーゼル機関(?)のノイズとハープその他の音の不思議な融合。音のノイジーさとクラシカルな楽器がなす「慈愛」って感じのサウンドが妙にマッチする。いやマッチしてるのかなこれは。ノイズに慣れすぎたせいかもしれないけど、演奏がエンジン音にちゃんと呼応していて、ひとつのオーケストレーションとして完成した交響曲のようにも聞こえる。

Glitch Princess / yeule

不健康系アンビエントポップス。前作の方がダンスミュージック的なアプローチ多めで親しみやすさはあったかも。それでもリバーブで思いっきりぼやかした不思議な浮遊感は今作も健在で、ちょっと不穏な危うさみたいなのはより色濃い気がする。最後に単曲4時間以上に及ぶドローンが付属するバージョンもあってその曲もおすすめだけど、ポップス要素だけ楽しみたいならこれだけで十分。

言葉のない夜に / 優河

すんごい力強いフォーク。優しい歌声とSufjan Stevensに通じる凝ったアレンジの組み合わせ。言葉にするとそれまでなんだけど、すべての音に層をなすような厚みがあって、とにかく熱量がすごい。冒頭二曲でただただ圧倒されてしまった。フォーマットはフォーク的だけど、ソウルやブルースのように音にエネルギーがぎっしり。上半期の「もっと早く知りたかったアーティスト」部門一位。

Open / Tapani Rinne & Juha Mäki-Patola

音の美しさが際立つ生楽器アンビエント。特にサックス系のメロディがしっかりついているので、もしかしたらジャズとつながっているのかもしれないけど、詳しいことはよくわからない。楽器の音が生き生きしていてそこが一番の聞きどころではないかと思う。

Hermetism / Joep Beving

静かなピアノ小品集。ロマン派の、特にショパンの穏やかめな曲を思わせる感じ。密室で徹底的に自己と向き合いながら即興で弾いたメロディを曲にまとめたものという印象。アップライトピアノの音Joep Bevingのメロディは相性が抜群によく、とても寂しいがちょっとだけ優しい、という塩梅が絶妙。

ISIH / Metatron Omega

前にどこかで見た、"Dungeon Synth"というジャンル(レトロゲーのダンジョンステージで流れるような無限ループのアンビエント)に近いのかな。実際、ちょっとコテコテの禍々しさみたいなところある。けど、リバーブを使った音響とかコーラスの処理とかにかなりの作り込みを感じて面白く、ちゃんとアンビエント作品として楽しめる。誰かこれBGMにクトゥルフTRPGしませんか?ご連絡待ってます。

"…on reflection" / William Basinski & Janek Schaefer

スケッチのようなアンビエント作品。などと思っていたら、実際には制作に8年を要したらしい。シンセやグラニュライザーで出したドローンっぽい音の上にこぼれ落ちるようにピアノの美しいループが重なったり重ならなかったりする。バシンスキーは「奇跡のワンループ」を見つけてそれをどう作品に仕上げるかという、ある種ヒップホップみたいなことに興味がある人だと思うのだけど、今回もその路線にあたるのかなと思った。今回のワンループは、個人的にドンピシャでした。

Radio Mnemosyne / Snufmumriko

グリッチサウンドが気持ち良いアルバム。10年ほど前、くぐもった空間系のパッド音とかプツプツとしたノイズとか、そういう音を多用したエレクトロニカ作品が大好きだったのだけど、今でもこういうの好きなんだなと再確認。こういう音楽は夏に聞くと良いんですよね。しかしこれなんて読むんだろう?バックストーリーとかあるのかな?

Limen / KMRU & Aho Ssan

重厚なノイズアンビエント。オーケストラによるドローン音が徐々に轟音系のひずみをまとって壮大なノイズの層を作っていく感じ。稲光と火山活動のジャケットから見るに、作品のコンセプトや方向性としてはBen FrostやTim Heckerに近い気がする。この手の作品はノイズと楽器的なハーモニーとのバランスがとても重要なのだけど、それが極めてうまくできているように思った。

Diaspora Problems / Soul Glo

ハイテンションハードコア・パンク。このジャンルはほぼ初めてだったけど、"Jump!!(or Get jumped!!!)"のMVがとにかく楽しかった。「で、バンド唯一の白人メンバーってどんな気持ち?」という煽りのような問いから始まる躁病のような絶叫とギュンギュン振り回すギター、一切容赦せず疾走するドラム。一聴して分かるほどバカテクなんだけどなんか一周回ってすごすぎて笑えてしまう。正直同ジャンルの他のアルバムとの区別はできないけど、このジャンルちゃんと聞いてみようかなと思うほど。エネルギーのある音楽は体に良い。

It Comes To Us All / FINAL

恍惚系ノイズドローン。発売2ヶ月ほど前からUntitled(3)が先行公開されていて、その時点でこれはすごいのが来るぞと楽しみにしていたのだけど、実際通しでも素晴らしかった。本来ビジュアルは外部情報にすぎないので重視すべきじゃないのかもしれないけど、音と絵とタイトルがマッチしていると本当に心から喜んでしまうよね……人間みんな死んじゃうって言いたいんだよな多分。このアルバムはそういういろんな角度で高得点を叩き出すトータル性の高さが気に入ってる。

Mr.Morale & Big Steppers / Kendrick Lamar

まだあまり聴き込めてないのだけど、それぞれの楽曲の訴求力が単純にすごいので選出。二枚組ではあるもののgood kid, m.A.A.d. cityやTPABのような一大叙事詩を作ろうという意気込みはあんまり感じない。それでも冒頭のUnited Griefをはじめ、ヒップホップでは聞いたことないようなサウンドにラップをのせていて面白い。歌詞の聞き取りもまだ甘いのだけど、ところどころ聞き取れるところもある。例えばWe Cry Together、Auntie Diariesなど、特定の難しいテーマに対して「俺はこう考えたよ」という思考の道筋を(ある意味試験の答案っぽく)非常にうまく見せてくれる、こういうところがケンドリックの好きなところなので今回の作品にもかなり満足している。

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なんか一部を除いて人とめっちゃかぶるか超メジャーどころの選出なのでなんの面白みもないセレクションになってしまった。

面白かった旧譜編

なんも面白いこと言えてないのは悔しいので、上半期に見つけた面白い旧譜の話を三枚だけしますね。

The Glowing Man / SWANS

傑作と名高い2016年作のTo Be Kindに続いて出されたSWANSのThe Glowing Manがよかった。というか怖かった。なんか体中にあるたくさんの「目」が全部一気にカァーッ!って開く感じ。

こういう目です

ロックというフォーマットでどこまでいけるか?という、過去に散々実験も議論もなされたテーマに、シンプルなアプローチと恐らく数え切れない試行錯誤で到達した音楽。ところどころファンキーだったりリズミカルだったりして馴染みやすいのだけど、なんかそれさえMichael Giraの術中にハマってる感じがして油断できない。そして案の定よく聞くとボーカルがなんか呪詛っぽい。こわ。SWANSの作品はどれも尺が長いくせに常に緊張感がすごい。そこが最高。都合上割愛したけど2012年作のThe Seerも同じくらいの傑作。

Drowner Yellow Swans / Yellow Swans

SWANSのロックンロールが体の内側から脈打つエネルギーが外側に向かって爆発していく作品なら、こちらは体の外側に存在する巨大な漆黒の渦の中へ体が引っ張り込まれていくようなアルバム。やはりこれも怖い。こちらは宗教的・知性的なおそろしさではなくて、とにかくデカくて不愉快な音が実体を持って強引に暴力を押し付けてくるようなこわさ。単純なうるささでいえば所有しているアルバムでも随一かもしれない。水の中に引きずり込まれていく白鳥のイメージがまさにぴったり合っていて、ジャケットもタイトルも含めて非常によくできている。

Five Leaves Left / Nick Drake

これもまぁ知ってる人は当然知ってるというアルバムらしいのだけど、寡聞にしてアーティスト名すら知らなかったため、聞き流すつもりで適当に再生ボタンを押して思いのほか打ちのめされてしまった。2曲目のRiver Manみたいな、めっちゃくちゃ繊細なアコギの弾き語りに丁寧かつ分厚めのストリングスが乗るとすんごい説得力が出てしまう。商業的にはふるわず数枚のアルバムを残すのみでこの世を去ってしまったらしいのだけど、残りを聞くのが楽しみ。

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6月以降ちょっと音楽を掘る活動が滞り気味だったので今月からまた元気よく漁ってみたい。

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