夏みかん はじめました
久々に帰った実家の庭の夏みかんが思いのほか豊作で、途方に暮れている。
両親がまだ健在の頃に植えた木で、毎年実をつけては、夕飯の後のデザートになったり、ご近所さんに配ったりしていたのを思い出す。
そんな姿を近くで見ていながら、私はまだ一度も食べたことがない。
夏みかん食べる?と実家に帰るたびに母に聞かれても、
「いらない」と即答していた。
冬の風物詩、みかんは大好きでよく食べるのだが、夏みかんを避ける理由はただ一つ。
「むくのがめんどくさい」
それだけだった。
みかんと違い、素手でむくには力が要り、包丁のお世話にならねばならない。夏みかんひとつ食べるのに、包丁、まな板、お皿など、洗い物も増えてしまう。果汁で手も濡れるだろう。
手がかかるイメージばかりが先行して、食べる前に身を引いていた。
おいしいよ?と母がカマをかけてきても、いい、と言って断固として乗らなかった。
そんな、ものぐさで食わず嫌いの私の前に、例年よりもたわわに実った夏みかんの木が立ちはだかっている。
今年はよりによって、夏みかんの当たり年なんだろうか。
普段留守にしている家に、たくさんのオレンジの実が賑やかに生っているのが勿体なく見えたのか、仲良くしているご近所さんからも、そろそろ収穫したら?と言われてしまった。
どうしよう。
ざっと見上げただけでも30個…いや、50個以上はある。
いきなり子だくさんになった後妻みたいな気分だ。(経験はないけど)
今まで頑なに避けてきた夏みかんを前に、何をどうしたらよいのか見当もつかない。
ジャム作るったって、パンそんなに食べないしなぁ。
生絞り夏みかんサワーを毎日作って飲む…これはなかなか現実的かな。
ご近所さんにおすそ分けしてみようか。
夏みかんという想定外のお題を前に、私の頭は混乱する。
いや、その前に。
そもそも食べられるクオリティなのか、まずは毒見をしなければ。
あまり気が進まないまま、とりあえず一個食べてみることにした。
夕方、雨の予報が当たる前に、生まれて初めての夏みかんの収穫をした。
簡単にもげるだろうと思い、素手で引っぱってみたら相手はなかなか手ごわく、ハサミが必須なのだと知った。
枝と実の境目にハサミをかざす。
ぱちん、という音とともに手の中に落ちてきた夏みかんの実は思ったよりも重たく、柑橘系のいい香りがした。
一個だけのつもりが、なんとなく一個では物足りなくなり、食べ切るあてもないまま結局三個収穫した。
「夏みかん 大量消費」とか「夏みかん むき方」でまずは検索をかけてみる。
そもそも、冬なのになぜ夏みかん?
気になりだすとつい横道にそれる。
「夏みかん 冬なのに」というワードが出てきた。
同じことを考える人はやっぱりいるのだ。
冬に収穫するが、そのままでは酸味が強く、春先から初夏のあたりまで貯蔵して酸を抜き、食べ頃を迎えるんだそうだ。
ふむふむ。そういうことか。
「むき方」動画を参考に、見よう見まねで包丁を入れてみた。
上下を薄くスライスし、リンゴのように皮を回しながら切る方法。
うまく出来ずに、結局母がやっていたように、ざっくり4つ切りにしたら簡単だった。
親指を使って皮と実を引き離し、ひと口食べてみる。
・・・すっぱ。
思わず目をつぶった。
みかんに慣れた舌には、少々刺激的。
でも、食べられなくはない。
味をおそるおそる確かめながら、次のひと切れを口に入れる。
舌が慣れてくると、レモンよりはずっとマイルドだった。
思ったよりも、なかなかいける。
甘みがあるとは言えない。
食べられないほど酸っぱくない。
夏みかんと聞いて思い浮かべる味そのまんまだった。
さて、これからどうしよう。
食用当確ラインにいることが分かってしまった以上、たわわに実った夏みかんをこのまま放置するのは忍びない。
夏みかん様の命、全部とはいかないまでも、ちょっとは活かして差し上げないと…って気になってきた。
ご近所さんへのおすそ分け、市内に住む従姉への強制(?)プレゼント、あとは重いのを我慢して自宅に持って帰り、作ったことのないマーマレードに挑戦してみるか。
そういえば、新年に決めた、私の今年の漢字は「活」だった。
早速お試しの機会を与えられたってことだろうか。
こんな食べ方もあるよ!ってアイデアがありましたら、是非お知恵をかしてくださいませ。
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