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BMI使ってみた,もしかしたら凄いことが起きるのかもしれない


 BMI(Brain-Machine Interface)やBCI(Brain-Computer Interface)は脳活動に応じて機器やロボットを動かす技術の総称です.

 LIFESCAPES機能訓練用BMI(手指)タイプは脳卒中患者(あるいは中枢神経損傷患者)に対して上肢機能訓練の一環として,運動イメージを行った際に生じる生体信号の変化を頭皮電極から検出し,上肢に装着した電装装具と神経筋電気刺激によるフィードバックを行う機器である(取扱説明書より).とあります.


使う前から疑念と誤解

 私はこれまでに脳卒中後の上肢麻痺に対する介入場面でいくつかのロボットや機器を使用してきました. 

 ReoGo-Jは画面上の仮想目標物にリーチ練習を反復する機械で多彩な運動方向とアシストモードがウリですが,筋電や脳波などのセンシングは行いません.

 HA L単関節は運動意思に伴う微弱な生体信号(≒筋電)を感知してトリガーにして外骨格を動かします.主に肘に使用します.

 MELTzは生体信号(≒筋電)をアルゴリズム処理して精微なワイヤーを利用した装着デバイスがこれまで困難だった手指の屈曲伸展,つまみはなしなどの練習を可能にしました.

 手指の練習といえば10年近く利用しているMUROソリューションがありました.これもセンシングした筋電をトリガーにして経皮的に低周波電気刺激により手指伸展をアシストするものです.これについては筋電に応じて電気が流れて指が伸びて「わあっ」となる療法士や患者さんがたくさんいましたが,安静時にも微弱な通電が行われていて随意収縮を促通しているというのがミソだった気がします.

 ReoGo-J以外の機器は少し乱暴な言い方でくくると,微弱な筋電をトリガーにして関節運動をアシストする機械です.このイメージが新しく登場する機器に対しても強いことが一つ背景にありました.なんの背景か・・・.後ほど.

 さらにこのBMIが機器として登場した時に「随意筋電図が誘導されない重症例でもBMI訓練で随意筋電図が誘導されるようになる」と言うところから話が始まった印象がありました.これに飛びつく療法士の頭の中には筋電≒生体信号に近しいものを脳から引っ張り出して,指を動かす反復練習ができる機械ではないかと勝手な解釈が浮かびます.

 指が全く動かない人がBMIで筋電出るようになってMELTzやMUROで反復して,ReoGoでリーチも鍛えたら,物品課題訓練が可能になって,ADOC -Hなどで実動作場面の使用習慣を促したら実用手可能じゃん!という夢の治療パスが完成します.

 実際には夢ではなく,充分現実的ではあるのですが現場の療法士は使用前に疑念を妄想します.そして使用して誤解します.

 疑念は片麻痺患者は病型,病巣により重症度はまちまちだが概ね発症時よりいくらか随意運動は回復することが多い.発症早期は「脳が混乱状態」にあると聞くけれども,混乱した脳で「手指の運動指令を出せるんだろうか」という思いです.さらにいえばその状態で「曲げたり,伸ばしたり」の命令を出せるのだろうか,と言う思いです.実はこれがすでに誤解の始まりなのですが・・・.

 誤解は機器を使用し始めてさらに深まります.脳から指令を出してるんだよね.それを促せば良いんだよね.

 「リラックスしてください・・・・・はい指伸ばして!」

 そんな教示は説明書には載っていないのですが・・・.
 
 あれ,なんか電動装具やけにチャチイな,電気刺激も随分お粗末だな・・・・.

 これらの装具や刺激装置はPCモニター上の波形確認と同様のフィードバック手段であり,単純な同期手段であることを理解できない.医療職ではない某機器販売の営業マンもあの装具だけに注目して「あんなんで商品になるんですか?」と質問に来ました.

 また効果があるとしても発症早期の機能が上がらない時期への適応ならば使うフェーズが短期間すぎてそこに機器投入のコストをかけられるかと言う問題があります.臨床研究の多くはいわゆるプラトーになった生活維持期以降に行われることが多いです.では発症早期ではなくて重症の方に適応していくことができるかというと,回復期以降や介護保険現場で重症の上肢機能障害を「治療しようとする」機関や組織は極めて少ないと思います.

 10年前に学会講演で衝撃を受けた著名な先生を中心に開発されたこの道具は現場で使うことができるのだろうか.いや,我々学術的背景を持たない不勉強な療法士は使えないのではないか,そんなふうに感じました.


脳卒中片麻痺者への上肢機能訓練

 上肢機能訓練場面にロボットや機器をあまり持ち込んでいなかった10年以上前の話です.「上肢の訓練は近位から」と,どなたかがおっしゃいました.肩肘をしっかりさせないと,何もできないだろう,と言うのです.体幹機能に注意を図りながら,麻痺側上肢を持ち上げる練習をすると確かに肩肘は改善する患者さんがいます.

 でもそうした方達もリーチ動作が可能になる頃には手関節や手指の痙縮が増悪したり,いつまでも手関節がダランと掌屈位のままです.指なんか動きません.集団屈曲は可能になっても伸ばせません.さらに言わせていただくと,そのリーチ動作は肩からつまり近位から運動開始される腕全体を担ぐような挙上でした.私がやってほしいリーチは指の先から目標物に向かうリーチなのに.

 当時,指導を受けていた恩師のリハビリテーション医が学会みやげに一冊の教科書を買ってきてくれました.川平和美先生の「片麻痺回復のための運動療法―促通反復療法「川平法」の理論と実際」でした.夢中で読み進め,OTスタッフと共に練習しました.私自身は管理業務の関係で結局研修会には行けませんでしたが,複数の同僚が実技研修会に出向き,1人は当時の鹿児島大学霧島リハビリテーションセンターに数ヶ月の研修に行きました.

 信念を持って川平法に挑む療法士と患者さんが諦めずに取り組んでいると,手指の随意運動が全く出なかった方の指が「ふにゃふにゃと」動き始めます.各指100回の反復を100日以上かけて継続して出現する方もいました.しかも,この出現が叶うと発症から時間が経過していてもその後の手指の改善も良好なケースが多かった印象です.ちなみにこの時に手指の伸展出現の様子がBMI練習で出現する時の手指の伸ばし方にすごく似ている印象がありました.

 川平法は良かったのですが日常の臨床的には色々と難しいと感じるところもありました.

 まず,ものすごく手間と時間と忍耐力を必要とすること.これは患者も療法士もです.ほとんどみんな諦めちゃう.脳卒中リハの6ヶ月の壁とか言われるのは大抵,練習をやり続けることをやめてしまうことに起因すると思います.

 2番目に手指や手関節に動きが発現してその後にpinch & releaseが可能になっても遠位の練習に時間を使いすぎてしまい,気づいた時にはリーチの精度が著しく悪い状態のままになること.

 北海道の中ではわりに早くCI療法に取り組んでいた当院が,川平法で動くようになった手にCI療法を適用してそこそこの成果は出すのですが,どうも肩から担ぐような上肢挙上が気に入らない.みんな同じようなフォームになる.

 CI療法に関してある研究会で話を聞いていたら,ほとんど同じような対象者にやって,内容も差がないのに大学病院の事例とどうも最終的な機能改善に差がある.初めから適応基準にのる人たちではなく,主に重症で手指の動きが後からついてきた人たちに多い.

 その頃,その分野でトップリーダーたる敬愛すべき研究者であり療法士である先生の話を聞いたら「ああ,重症な人や急性期は今ほとんどロボットっすね」という.

 これがReoGoでした.これは使い方よってはいける,と北海道内で一番に導入しました.いまだにマストアイテムになっています.

 FMAの上肢近位のスコア向上に寄与する.遠位の機能改善,使用習慣の汎化には直接寄与しない.それを受けてReo訓練に取り組みました.

 大枠の考え方はこうです.
 多彩な運動方向とアシスト機能がある.条件設定して反復練習を可能にする機械であるから,あまり徒手的な介入を合わせる必要はないだろう.CI療法と同様に「代償動作に注意して試行回数が減る」よりも「たくさんの反復の中でパフォーマンスを上げていく」べきだ.その中で代償は減っていく.そう考えて量的負荷を段階的に増やしていくことを是としました.

 

運動イメージとは

 ReoGo-Jはとにかくたくさんリーチを反復する機械.どんどん使え・・・なのですが
 少し対象者の取り組み方に違いが出てきます.前方リーチ(前に手を伸ばして,引き寄せる)一つでもハンドルを握れている人と把持ができない状態でハンドルに括り付けられている人ではリーチ動作に大きな違いが出ます.体幹や肩を大きく前後に揺らしながら身体全体で前方に腕を放り投げるように突き出す動作,肩口から腕全体を引っ張るように畳み込む動作.これらでもReo練習はできますが繰り返してもなかなかリーチ精度は上がりません.代償が少なくなるにも時間がかかります.これらを修正するとき療法士から出る言葉は一つでした

 「手の先から動かすイメージでやりましょう」

 川平法が継続困難だったりする理由,成功の可否となるキーは何か.それは促通手技や単純な回数によるものではないことに徐々に現場の療法士は気づいていきます.何よりも大切なのは声かけによる運動企図の発現です.そう何よりも大切なのは反復している最中にしっかりと声掛けが必要なのです.

 「指の先から伸ばすイメージをしっかり持ってください」

 海外論文を眺めていると脳卒中上肢機能訓練の練習方法としてよく登場する言葉にMental practiceがあります.要はイメトレなのでしょうがなかなか具体的な方法がわかりません.ただ厄介なことにどのレビューやメタアナリシスでも「結構良いよ!」と言う話になっていて,ガイドラインでも最近はミラーセラピーについての記述だったり,最新だとBMIに関する記述もありますが,2011年頃の治療ガイドラインには

 「麻痺側上肢に 対しイメージ訓練を積極的に・・・」とありました.

 ミラーセラピー併用で良い感じで随意運動が出現したと感じる事例は極めて少ないのですが,様々な多角的介入の中でミラーセラピー実施中に初めて指が動いた,と言う症例もいました.本人の驚きようは大変なものでした.その時療法士は言いました.

 「没頭して,しっかり指のイメージできたんだね」

 認知神経リハビリテーション学会の方達が主張している介入方法(その昔,認知運動療法と呼ばれていた)は感覚,知覚情報を様々に感じ取ってもらいその表象を想像することを求めます.やや聞き齧りです.私は大昔にこの方達のベーシックコースというのを終了しただけで不正確かもしれません.ただ,見よう見まねで運動そのものを求めないで手指の他動的誘導で高さや材質や形状などの感覚刺激から,対象物の状況を表象してもらう練習をしていると,途端に痙縮が一時的に軽減したり,継続するとそれまで動かなかった指が動いてくる場面を経験します.この方達のwebサイトでは定義を説明する文章の中に以下のように書かれていました.

 「運動表象(運動イメージ)の構築が重要な意味を持つ」

 


 先に述べたBMI訓練の場面でも

「指を伸ばしてください」

という教示よりも

「あっ,指の先に今何か触れましたよね.」

という声かけの方が成功しやすくなる場面があります.

注意を向ける,意識する,感じ取ろうとするそれがイメージかもしれません.


イメージ,イメージ,イメージ,イメージ

 そんなに大切なら,イメージを直接訓練できれば良いのに!
 でもイメージって触れないよね.



近位と遠位

 ReoGo-Jの手応えや幾つかの神経機構に関わるお勉強から,どうやら近位の回復と遠位の回復はやや異なる,別物と言えるかもしれないと思い始めました.とはいえ,上肢として協調しなければならない.

 近位が比較的早期に回復してReoGo-J訓練も進捗し,上肢挙上も叶うのに今ひとつ遠位の回復が思うように進まない方がいます.病巣や重症度や環境,やる気の問題だけではないようにも見えます.

 同側支配の比率の多いといわれる近位の筋活動が早くに回復してくる数人の患者さんを見ていると,指や手関節の単関節運動を求めても,やたらと肩を引き上げて過剰に力を込めて振り絞ろうとします.気合いが入れば入るほど遠位の指は動きません.

 療法士が幾度も声掛けしています

 「肩下げてください!」
 「肩の力抜いてください!」
 「指ですよ指,そんなに力入りませんよ」

 遠位が動かないのでそこを動かせと言われた時に,動く,あるいは力を込めることができる近位で頑張ろうとするのは自然な反応なのかもしれません.ただ,近位に力を込めれば込めるほど手指が動く気配から遠ざかるようにも見えます.

 妄想ついでに言うならば,病巣側(対側)半球の可塑性を求めているのに,訓練や促しが非病巣(同側)半球の過疎的変化を求める(近位を頑張らせる)ものになっていないかと思い始めました.

 本当は病巣や重症度からももっと回復して良いはずの患者さんに遠位≒手指≒対側半球の活性化を誘導できずにどんどん近位≒肩肘≒同側半球の活性化を行ってはいないか,と考え始めました.とはいえ,動くのは近位なのでどうにもなりません.

 ものの本によれば運動イメージや運動企図を持てた時,同時に他動運動や感覚刺激(電気刺激)をフィードバックしてやると・・・・いやフィードバックというよりも同時か
 つまり,運動イメージ惹起の神経活動と運動感覚や電気刺激の感覚の神経活動が同時に共起すると,タイミング依存的に可塑性が促進されるらしい.



妄想なんでしょうか?

 現在の頭皮脳波によるBMI訓練機器は一側上肢の手指,肘,肩の運動を別個に推定はできていないとされる.たしかにそうなんだろう.BMI訓練が手指の動きを選択的に訓練しているわけではないかもしれない.

 ただ,体幹や近位の筋は同側というより両側性に制御されているのに対して遠位≒手指はほぼ対側性に制御されているはずです.対側の頭皮脳波を用いて,さらに装具やビリビリで主に手指の求心的な神経活動を共起させているBMI機器訓練は結果的に

近位中心に運動を起こそうと頑張っちゃう対象者に手指や遠位のイメージを持たせるための直接訓練を行なっている

と考えることは,そうズレていないように思うのですが
いかがでしょう?

 上肢機能回復が満足なレベルに達しなかったという症例の中には,手指の運動イメージを持たせることに「失敗して」あるいは「それに注目した練習を行わずに」経過した方もいると思います.

 それは必ずしも病巣の問題や重症度や環境や意欲の問題だけではなく,近位と遠位の神経機構の回復の違いに気づけなかった,あるいは理解はしているけれども方法がわからなかった,そういう療法士のミスリードによってあるべき回復像に達していない方が多くいらっしゃった可能性があると思うのです.

 お前がヘボOTだからだ

という意見には全面的に賛同しますが「だから黙っとけ」という意見は聞けない性分です.

 BMI訓練は随意性が発現していない人に随意性発現,あるいは筋電発生するところまでのフェーズを担わせるだけの機器ではないかもしれません.

 指が動いていても,近位と連動した共同運動だったり,その上で痙縮増悪してその先の訓練の進捗が止まるケースが臨床にはたくさんいるような気がします.この方達に対して裏付け持って,声かけや誘導を吟味して利用することで

近位ではなく遠位を意識する.肩肘ではなくて手指に注意を持っていく練習を可能にする機械かもしれません

 その意味では強力な上肢機能訓練ツールになる可能性があるように感じます.

 開発した方やそもそもの研究に携わっている方々は「何を今さら」と聞こえるかもしれません.初めからそう言っているだろうと.

 でも,現場の療法士の多くは神経や脳波について知識の浅い,私のような不勉強ものです(叱られそう).

 文献を読み込んで話の筋を理解できる学術背景を持ちながら,かつ臨床で実践を行える療法士はごく僅かだと思います.

 さらに機器を導入したりツールとして使いこなすには個人の裁量だけでなく組織や部門の風土や仕組みが欠かせません.

 脳卒中後上肢麻痺のリハビリテーションのゴールデンスタンダードになる可能性の高い訓練コンセプトを一部の「意識高い系」の方だけで語ったり,共有するだけに留めてしまうのはなんとももったいない話です.

 あっ,訓練コンセプトが良いのではという意見で機器に関しては臨床場面で普及させるにはもう少し工夫欲しいかなと思います.

 頭皮脳波の検出は凄く簡便で使いやすいですが,とにかくあれこれの配線が多くて据え置きで使用するにしても厳しい.ましてや,軽快に持ち運びで使おうとするとなかなかに手間がかかります.

 これも一定のレベルに達したら上肢機能訓練のプレコンディショニングの自主訓練アイテムとして使用できると便利でしょうが,セッティングに療法士の手間がかかりすぎる印象があります.

 また,重症度なのか病期なのか病巣や病型なのか,何かレスポンダーとノンレスポンダーがいそうな気がします.効果的な声かけや他の訓練への橋渡し方法や段階づけに関して複合,多角的な介入を試みる必要があります.


 なんとも,まとまりない文章でお恥ずかしい.
 お読みいただきありがとうございます.


以上

 

 

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