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食後の

田舎から、特産品のブドウが送られてきた。
甘い甘い『ベリーA』だ。
贅沢にも、幼少時より毎年味わっており、私が秋の到来を一番感じることができる一品だ。

「食後のデザートですよー。」
同居している認知症の義母は、ブドウを口にいれて皮を出すことができる。
ただ、その皮をブドウの房のお皿に戻したり、出した皮を入れている器から取って食べようとするので、「そっち」「こっち」と声をかけながら一緒に秋を味わった。
あー、美味しい。

「次は食後のお薬ですよー。」
義母が、漢方薬の散剤と4つの錠剤を一度に口に入れる方法として、服薬ゼリーを使用している。
薬剤師さんより、漢方薬なら『龍角散のらくらく服薬ゼリー』が合う、と教わった。
ご機嫌のときなら、そのレモン味の服薬ゼリーに混ぜたお薬を「美味しいわぁ」と言ってのんでいる。

いつものように、漢方薬と錠剤を服薬ゼリーに混ぜ、スプーンに乗せて義母の口に入れた。
しばらくして、

「タネ」

と飲み込めなかった一錠だけ口から出した。
「違う、違う。これはクスリ」
もう一度、服薬ゼリーで錠剤を包んで口に入れ直す。

「ターネ」と言って出す。
「クスリー」と言って口に押し込む。

「ターネ」
「クスリー」

いやいや、さっきのは種無しブドウだったんだけど、と思いながら繰り返すこと3回。

「……。」
「……。」

負けた。
にらめっこ状態、アッププのギブアップ。
先に私が吹き出してしまった。
「タネです!」

きっと、順番が間違っていたんだね。
翌日は、食後の薬をのんだ後に食後のデザートのブドウを食べた。
何の問題もなかった。

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