ムシュフシュ:原初の竜(辰年にちなんで)
明けましておめでとうございます。
本年は辰年ということで、毎年恒例の干支のフィギュアは古代オリエントの伝説の竜(蛇?)、ムシュフシュをモチーフに作成いたしましたが、例年以上に評判がよくたくさんの方にご用命いただき、新年早々から嬉しい限りです。
サムネイルの着色版はギャラリーピカレスクにて展示、白と青の二色版はCreema等で販売中です。
せっかくなのでこちらでもムシュフシュとは何なのか?ということをもう少し深堀したいと思います。
以前にもティアマトの11の怪物の一つとして記事を書いたこともあり、同人誌としても発行しておりますので、お布施の一つと思って手に取っていただけますと幸いです。
この以前書いた記事の補足というか、追記みたいな形になるのですが、ムシュフシュとは古代メソポタミア文明で信仰された神々に仕える随獣だということを抑えたうえで、それが実は現代の創作のドラゴンにも影響しているんじゃないか?というお話です。
ムシュフシュの歴史は遡るとものすごく古く、絵として残っているものに限っても紀元前3000年を超えます。あの古代エジプトの壁画にも登場しており、その影響力を考えると登場はもっともっと古くてもおかしくはありません。
古代メソポタミアの言語であるシュメール語でもアッカド語でも竜と蛇を言語的に区別しないので、本当に竜なのかというのは怪しいのですが、少なくとも超自然的な力を持つ生き物として扱われていたのは確かで、更に早々に蛇に加えてデザインに獅子の要素が加わっていることから一般的な蛇ではない=竜だとすれば世界最古の竜ということになります。
その図というのがこちらで、お正月のフィギュアもこの図を基にしたものになります。
この2頭が巻き付いた蛇の首というモチーフは古代ギリシャのアスクレピオスの杖とよく似ており、何らかの影響があるような気もしますが、この巻いた蛇の図はかなり広範に使われているので想像の域を出ないです。
なお、ギリシャ的には蛇は大地的治癒力を伝えるらしいのですが、古代オリエントの蛇ないし竜にはそんな属性はなく、むしろ治癒力は犬に見出していたようなので、もしご興味がありましたら以下の記事もご参照ください。
そんな蛇要素がかなり強かったムシュフシュですが、何千年も経つうちに蛇要素は段々少なくなっており、有名なバビロンのイシュタル門におけるレリーフでは大分我々がイメージするドラゴンチックになっています。
なお、ウル第三王朝時代には一時的に羽が足され、要素的には完全に現代の創作におけるドラゴンと同じになりますが、なぜかその後、羽は消えてしまいます。
その羽も蝙蝠や翼竜というよりは鳥的な羽で、鳥要素は後ろ足のカギ爪に残される形になります。
なんとなく従う偉大な神よりも大きくなってしまったり神々しくなることをなるべく避けたのではないかという気がします。
*主役の方を大きく描くのはその後の絵画にも共通した特徴です。
ここまで見ているだけで、既に古代オリエントの時点で中世欧州の竜よりもぐっと今時の創作ドラゴンらしいといいますか、デザインとしては完成してしまっているといっていいと思います。
以下西洋絵画の聖ゲオルギオスのドラゴン退治を題材にしたものですが、中世どころかルネサンスになってもいまいち定まっていないことがわかります。
蝙蝠系の羽をもつという設定は恐らく中国の蝙蝠が縁起ものだったとか、蝙蝠が悪魔的な意味で使われたとかであろうということで流行りだすのですが、東欧の龍が鳥系の羽なのはオリエントの影響もあるのかなという気がします。
まとめると、
・竜は古代オリエントの時点で蛇要素が強かったものから脱却している。
・中世欧州のドラゴンは長々とそのスタイルは定まっておらず、蛇的要素がずっと強かった。
・近代に近づいてようやくオリエンタルな竜の要素が取り入れられ、現代の創作におけるドラゴンに近くなった。
ということです。
なお、東洋の龍は…多少獅子要素は入っているのですが、大部分が蛇であることにはずっと固執しています。これは龍が川の象徴であったからということが大きいと思われます。
古代オリエントの蛇ないし竜は真逆で山と火山の象徴なのです。だから奴らは火を吐くと伝えられたのです。
創作物を見るときにこの辺りの変転を意識するとちょっと面白いかもしれませんね。
それでは今年もよろしくお願いいたします。