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N 響 主席指揮者ルイージさんによる東京藝大学生への熱血指導(その1):元教授、定年退職108日目

十数年前から、各大学が授業を無料でオンライン公開する機会が増えてきました。これは、大学からは意欲的な学生を世界中から受け入れたいという意図があり、学生にとっても、留学せずともその大学の授業を受講できるという願ってもない機会です。ポッドキャストや YouTube などのプラットフォームを利用して、たとえば MIT やスタンフォード大学、日本では東大や早稲田大学などが授業を公開しています。

私たち教員にとっても非常に有意義です。私が担当した有機化学の分野では UC Berkeley の授業が公開されており、当時使用していた教科書(下写真)の著者が授業を行っていました。授業の PowerPoint 原稿や試験問題まで公開されていました。私は学生たちにもその存在を知らせ、希望者はぜひそちらも視聴するよう勧めていました。

私が使用していた有機化学の教科書


最近では、テレビでハーバード大学の公開授業が放映されるほか、「奇跡のレッスン」などの番組では、様々な分野で活躍した人が授業(コーチ)を行う企画も見られます。少し前には、MLB の伝説的投手ランディ・ジョンソンさん(サイ・ヤング賞5度、最も新しい300勝投手)が中学生を教える企画がありました。当初は気難しい孤高のイメージがありましたが、実際には優しい紳士で、メジャー流の練習方法を熱く指導していました。

私自身がやっていたソフトボールでも、オリンピックで2度金メダルを獲っているアメリカ代表のミッシェル・スミスさんが、レッスンを行っていました。世界で一番速い球を投げる選手と言われた人ですが、部員数 11名の高校女子ソフトボール部のコーチを指導しました。最初はいろいろなトラブル(理論の違うコーチとぶつかったり、学生が自信を無くしたり)がありましたが、最終的には皆元気になり非常に良い回になりました。


一昨日、NHK 教育テレビ(Eテレ)の「クラシック音楽館」という番組で、NHK 交響楽団の主席指揮者ファビオ・ルイージさんが(タイトル写真、下写真、(注1))、東京藝術大学の指揮科学生を指導する様子が放映されていました。前半はメンデルスゾーンの曲の指揮でしたが、後半の指導風景があまりにも印象的でしたので、ご紹介します。伊武雅刀さんのナレーションもまた素晴らしかったです。

NHK交響楽団の主席指揮者ファビオ・ルイージさん(注1)


番組では、まず東京藝大の指揮科の学生4人(学部2年、3年、4年、修士2年)が紹介されました。ルイージさんは、いきなりオーケストラの前で指揮をさせるのではなく、前日にピアノ2台を用いた予備練習を行い、あらかじめ学生の個性や課題を洗い出そうとします (下写真)。

ピアノ2台を用いた予備練習(注2)

素人の私が見ても、学生たちは皆それぞれ個性豊かで良い指揮をしているように見えました。しかし、ルイージさんの指導が始まると (下写真)、4人全員に明らかな変化が見られていきます。以下にその内容を一人ずつ簡単に示します。

ルイージさんの指導(注2)


・修士2年の学生には「肩、腕、肘、手首、指の全ての関節を使いなさい」と指導します。驚いたのは、先生が学生の腕を固定し、その状態で手首と指だけで表現するように指導したことです (下写真)。これにより、手首と指の動きが格段に活発になりました。

ルイージさんが学生の腕を固定し、その状態で手首と指だけで表現させる(注2)

・学部2年の学生には、「胸を開くよう意識しなさい」という指導でした。楽譜を見過ぎるためだと指摘され、ルイージさんが途中で楽譜を閉じてしまうと (下写真)、学生は戸惑っていました。しかし、最終的にはその癖が減っていきました。

ルイージさんが途中で楽譜を閉じてしまう(注2)

・学部3年の学生には、指揮棒を持たない「左手の使い方」の指導でした。右手を使わず左手だけで指揮をさせると、問題点が明らかになりました。奏者にわかる、手を使ったボキャブラリーを習得するよう指導しました。

・学部4年の学生には、最初は褒めつつも左手の表情が時々なくなることを指摘していました。一方、動きが大きすぎても誤解を与えるので、勇気を持って動きを小さくするよう指導しました。すると、表現力が向上しました。


なお、ここまでは番組の前半で、翌日からはオーケストラでの本番の指導が始まります。後半は21日に放送される予定で、学生たちがどのように改善できるのか、新たな一歩を進められるのか非常に楽しみです。予告編を見る限り、順風満帆ではなく波乱万丈の展開が予想されます。

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注1:NHK 交響楽団ホームペジ https://www.nhkso.or.jp/ より
注2:NHK 教育テレビ(Eテレ)「クラシック音楽館」より



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