短編「伝説のライブ」
恥ずかしがり屋の兄がいた。
毎晩コツコツと機械で歌を作っては自分しか見えないファイルに保存して楽しんでいるような人だった。
せっかく良い曲なんだし、いろんな人に聞いてもらおうよ!と言っても
「恥ずかしいからダメ」
と全くノリ気になってくれなかった。歌姫のことも音楽のことも分からない自分は、勿体無いと膨れるしかできなかった。
まあ、とはいえ趣味だからと何十年も続けている兄の楽しそうな様子に、これもこれで良いかと一人暮らしを始める兄を見送って早数年。
過労死なんて、楽しそうな笑顔