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【体験談】歩きスマホしてるヤンキーにぶつかった話


あれは、大学二年の冬。

練習試合があった日の出来事だった。
その日は、昼から他大学と練習試合して、同期でご飯やらカラオケやらに行って、疲れ果てて帰っていた日のこと。

夜12時頃だっただろうか。

最寄りの駅に付き、薄気味悪い道路を一人、
耳にはイヤホンで曲を聴き、
背中には防具を背負い、
手には竹刀が二本入った竹刀袋を持って
トコトコと歩いていた。

こんな感じの狭い歩道を一人歩いていた。

僕の地元は割と治安が良い方たが、その日、この街であまり見ないような、いかにも柄の悪い男二人が少し先から歩いて近づいてきた。

片方は冬の夜なのにサングラスをかけ、携帯をいじり、もう片方はポケットに手を入れて二人で話しながら歩いていたようだった。
服装はこれでもかという程派手である。

僕は、普段なら対面に人が歩いて来た時、
ほぼ100%車道に路線変更して道を譲る。

しかし、この日、僕は道を譲らなかった。

なぜなら、試合の疲労と防具の重さから路線変更がめんどくさいと感じたのである。

そしてなによりも、
「細い道だけどなんとかすれ違えるでしょ」
と浅はかな考えをする男がそこにはいた。

しかし、これが過ちだった。

自分がもし二人組で前方から人が歩いてきたら、自分の隣の人の後ろに周り、相手の通る道を作るだろう。

そのような僕の常識から、こんだけ重装備だし、道譲ってくれるっしょ。という甘えが、
僕の中にはあったのだ。

一方、この二人は僕との距離が10メートルを切っても横並びのまま歩いてきた。

結果、そのまま歩いたらぶつかると感じ、
僕は半身になって、二人を避ける形で二人の間を通り過ぎた。

二人は歩道の両端を歩いていたため、二人の間には人が一人分通れる隙間があったのだ。

なんとか通り過ぎる。


しかし、予想だにしたいことが突如として起きた。

「おい!!!」

イヤホンで音楽を聴く音を超える声が
後ろから耳に刺った。

僕は咄嗟に振り向く。

柄の悪い二人組は足を止め、
こっちを見ている。

サングラスの人の口がぱくぱくと動いているが、僕はイヤホンをしているため聞こえなかった。

え、ぶつかったのかな。

僕はすぐにそう思い、イヤホンを取り、言った。

「ぶつかりましたか?」

二人の男のうち、一人が威圧感剥き出しで
近づいてきた。

そして、無造作にiPhoneを見せつけてくると、
その画面はバリバリに割れていたのだ。

サングラスの男は言った。
「これどうすんの?」と。

僕は思った。
え、俺とぶつかって割れたの?

「自分、ぶつかりましたか?」
僕の口が勝手に動く。

「あ?テメェのその背負ってるやつがぶつかったんだよ。これどうしてくれんだよ、テメェが弁償できんのか?」
(記憶上、確かそんな感じ)
サングラスの男は、捲し立てながら、もう一人と挟むように僕を囲んできた。

後ろには塀、左にはサングラスの男、右にはもう一人の男という形になった。
どちらも二十台半ばといった年齢に見える。

僕は白旗をあげ、申し訳ないと謝った。
しかし、そんな言葉が通用するわけもなく、
「俺が自腹で直せばいいんか?」
とサングラスは訊いてきた。

「お前、いくら稼いでる?」
「いくら貯金ある?」

なぜかもう一人の方も訊いてくる。

相手は僕の貯金額に応じてお金を請求しようとしているようだった。

しかし、しつこい金額の要求にふと思う。

これ、昔ながらの自作自演で花瓶割って請求するような詐欺じゃないのか?と。

そこから、自分が壊したのか、詐欺なのか半信半疑な視点が芽生え、警戒しはじめた。

そこで、僕は勇気を出して言った。
「弁償はしたいのですが、自分は高校生なので、警察を通して、大人の人を交えて話がしたいです。」

僕は咄嗟に高校生だと嘘をついた。

うちの部活では、練習試合や大会などの時、「部服」と言われる制服を着る風習があります。部服の見た目は、ほぼ高校の制服のようなものです。
そのため、この日の僕は完全に高校生でした。

「警察なんて呼んでも時間の無駄だ」
「親にでも頼んで、金下ろせよ」
「身分証出せ」
相手もぐいぐいくる。

しかし、身分証だけは死守した。

僕はこの時、反論の仕方が分からなくて、
しばらく黙ってしまった。

相手は「どうすんだよ。早く決めろよ」
といって、僕の靴を踏んでくる。


もう、誰か助けてくれ。
そう思って、視線をずらしても、
時間は夜遅くで、人は全然通らない。

いっそのこと全力疾走して逃げたい。
しかし、防具もあり、挟まれているし、
逃げ切れる可能性はゼロだった。
最悪、竹刀使って戦うしかないのか。
そんなことも頭をよぎる。

しかし精神的には、あの上下関係の厳しさで鍛えられていたのか、根拠のない冷静さがあった。

僕は話をすることを決め、
「警察を呼んで話しましょう。」
「警察を呼ばさせてください。」
僕はそれだけお願いすることにした。

「ここで働かせてください!」だけ言って
懇願する『千と千尋の神隠し』の千尋になった気分だった。

しかし、そうは言っても、相手の反論は次々出てくる。
「お前が割ったのに、なんでお前のお願い聞かなきゃいけないの?」
「示談に警察なんて呼ばねぇよ」
話は平行線のまま、数分が経った。

その間、自転車に乗った人が数人、通ったのだが、みんな横目で見るだけだった。


しかし、救世主が現れた。
タイムリミットだ。

「時間やばいよ」一方の男が言う。
終電なのか、予定があるのか、タイムリミットが来たようだった。

サングラスは舌打ちをして、
僕を少し罵倒したあと、開放してくれたのだった。

サングラスは最後に「消えろ」とだけ言って、駅に向かい始める。

僕は、安心感を感じながらも、
「割ってしまってすいませんでした。」と去っていく背中に向かって言った。反応は特になかった。

家に帰る途中、つけられていないか、気にしながら、遠回りをして無事に家に帰った。

実際、あれが詐欺なのか事故なのか、真相は未だに分からない。
しかし、おそらく自分がぶつかって、スマホが落ち、相手はイライラして高額なお金を請求してきたのだと思っている。
結果、申し訳ないことをしたなと思う。

もう二度と体験したくない思い出である。


あれから、道はしっかり譲ることにしている。


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