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24枚の正五角形を1箇所に4枚ずつ集めてください

 (この数学の記事全体は、中学1年生なら読めるように書きたいと思います。小学生でも理解できるように書きたいのですが、少しだけ負の数(マイナスの数)が出て来るのと、少しだけ文字式の変形が出て来ますので、やはり中学1年生の知識がいるように思います。じつは、下のほうにある(※)という問題だけであれば、小学生の皆さんでも取り組めるのではないかと思っています。途中の考えは飛ばして、最後の答えだけご覧になれば、これは小学校算数の範囲でもあると思っています。こういう話のお好きな小中高生、大学生、院生、社会人の皆さんにもお楽しみいただけるように書きたいと思います。よろしければお読みくださいね。)

 次の絵を見てください。立方体です。頂点の数はいくつでしょうか。$${8}$$個ですね?辺の数はいくつでしょうか。$${12}$$本ですね?面(正方形)の数はいくつでしょうか。$${6}$$枚ですね。ここで頂点の数を$${v}$$、辺の数を$${e}$$、面の数を$${f}$$としまして、急にですが、(頂点の数)-(辺の数)+(面の数)という数を考えます。すなわち$${v-e+f}$$という数を考えるのです。誰がなぜこんなことを思いついたのかはわかりませんが、計算してみますね。$${8-12+6=2}$$です。

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 つぎに、以下の絵をご覧ください。四面体です。頂点の数は、$${4}$$個ありますね。辺の数は、よく数えていただきたいのですが、$${6}$$本ありますね。面(三角形)の数は$${4}$$枚ありますね。この場合、$${v-e+f=4-6+4=2}$$です。

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 つぎです。以下の絵をご覧ください。三角柱です。頂点の数は、$${6}$$個ありますね。辺の数は、$${9}$$本ありますね。面の数は$${5}$$枚、ありますね。この場合は、$${v-e+f=6-9+5=2}$$ですね。

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 つぎです。以下の絵をご覧ください。四角錐です。ピラミッド形です。頂点の数は$${5}$$個で、辺の数は$${8}$$本で、面の数は$${5}$$枚です。この場合、$${v-e+f=5-8+5=2}$$です。

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 ここまでご覧になってお分かりになった通り、(頂点の数)-(辺の数)+(面の数)は、つねに$${2}$$になって来ました。これは偶然でしょうか?じつは、必然なのですが、これに最初に気がついた人はものすごく偉いですね。これ、高校生なら「オイラーの多面体定理」といって、ご存知だと思います。ここから先は、高校生でも知らない話になると思います。

 まず、この数は「オイラー数」あるいは「オイラー標数」というのでありまして(以下「オイラー数」で統一します)、位相不変量と言いますが、おおまかな形によって変わらないのです。その証明ですが、どうやらネットには初等的な(高校生でも理解できる)証明がたくさん存在するようです。しかし、私は学部4年であった1998年、William Thuston(ウィリアム・サーストン)の『Three-Dimensional Geometry and Topology』という本を読みましたが、そのなかでサーストンは「このことは初等的な証明がありそうに思えるが、じつは初等的な証明はない」と書いていました。つまり、高校生くらいで理解できる証明はないと主張していました。サーストンの証明は、各セルに電荷を乗せて、それをベクトル場で動かす証明だったと思います。もっともサーストンは一般の次元の「オイラー数が位相不変量であること」の証明をしていたので、それは初等的な証明がないのかもしれません(一般の次元では(頂点の数)-(辺の数)+(面の数)-(体の数)+(4次元のセルの数)-・・・というふうに続きます)。とにかく「高校生でも理解できる証明は存在しない」と私は学んできました。少し難しげな話が続いてしまいました。以下のようにお考えください。

 以下の絵は、立方体があわで出来ているとおもって、そこにストローを差し込み、ぷーっとふくらませて球面にしているところの絵です。この説明で通じますでしょうか。こう考えてみると、四面体でも、三角柱でも、四角錐でも、すべて、ストローを差し込んで、球面に出来ます。オイラー数は、球面のセル分割であれば、つねに$${2}$$なのです。(「セル分割」がまた簡単には厳密な説明が不能な専門用語です。すみません。ですからきちんとした議論ができないのですが、おおざっぱに球面をいろいろな頂点と辺と面に分割しているところだと思ってください。)

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 たとえば、以下の絵をご覧ください。魚の絵をかいてみました。これもセル分割にします。球面上にかいてあると思ってください。魚の目ん玉が宙ぶらりんなのはセル分割にならないので、そこだけ、線を引いていますが、あとはただの魚の絵でしょう。これで、$${v-e+f}$$を考えてみますね。

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 以下に数えた絵を載せておきます。頂点が$${16}$$個、辺が$${22}$$本、面が$${8}$$枚です。よく数えてみてくださいね。目ん玉の「まる」はそれで$${1}$$本の辺です。それから、いちばん外側も面であることを忘れないでください。それで、$${v-e+f=16-22+8=2}$$ですから、やはり$${2}$$です。これは多くの高校生、高校教師、予備校の先生も知らないことではないかと思います。魚の絵に限らず、どんな絵をかいてもこうなります。

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 それから、以下のような球面のセル分割を考えます。球面に$${1}$$個だけ、頂点をうち、それ以外のところが大きな$${1}$$枚の面です。これでもいいです。頂点は$${1}$$個、辺はないので$${0}$$本、面は$${1}$$つです。つまり$${v-e+f=1-0+1=2}$$で、やはり$${2}$$です。

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 それから、以下のような球面のセル分割を考えます。赤道を引いて、そこに$${1}$$個、点を打ちます。頂点は$${1}$$個、辺は$${1}$$本、面は北半球と南半球で$${2}$$枚です。$${v-e+f=1-1+2=2}$$で、やはり$${2}$$になります。

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 なんだか、どんな図形でも$${2}$$になるような気がしてきましたが、これは球面のセル分割の場合です。たとえば、以下のようなドーナツの表面(浮き輪)でやりますと、この数(オイラー数)は$${0}$$になります。ちょっとやってみましょう。そこで、まずつまらない脱線をしますね。

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 以下の図をご覧ください。これは、2005年に、私が院生であり、発達障害の二次障害で数学者の道を断たれ、やむを得ず中高の教員になろうとしたところ、専門の数学ばかりやりすぎていて、中高の数学は完全に忘れていた時代のころのことです。ある高校数学の参考書を買いました。著者は東大理学部数学科卒の、ある名門私学の先生でした。以下の図は、ほんとうは座標が入っており、直線$${l}$$にかんしてこの円を1回転させてできる図形の体積を求めよ、という問題でした。ドーナツ形ができることがおわかりになるでしょうか。数学Ⅲの積分の問題です。そしてこの先生は、最後にちょっとだけ「ちなみにこのような図形はトーラスという」とお書きでした。

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 違うのです。トーラスというのは、あくまでも表面だけを考えている図形でありまして、「浮き輪」なのです。「ドーナツの表面」なのです。ドーナツのように「なかがつまっている」ものではありません。なかがつまっている図形は「ソリッドトーラス」と言って、はっきり区別します。これは、体積を求める問題ですから、明らかになかはつまっており「ソリッドトーラス」です。これを「トーラス」ということは決してありません。当時、まだ院生だった私は「ふしぎな本だなあ」としか思いませんでしたが、どうやら高校数学の世界はその程度であることは、就職してだんだんわかってきたことです。この先生、ちょっと自分が知っているところを見せたかったのでしょうね。でも、馬脚を現しています。しかも、ほとんどの読者は、これが馬脚であることに気づきません。脱線おしまいです。

 さて、トーラスの形をしたセル分割と言いますか、多面体を考えてみたいと思います。以下のような図形はいかがでしょうか。直方体を並べてつくった、まんなかに穴のあいた図形なのですが、おわかりになりますかね?わかりづらくてすみません。これの頂点の数と辺の数と面の数を数えてみましょう。

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 以下の絵のようになりました。頂点が$${24}$$個、辺が$${44}$$本、面が$${20}$$枚です。$${v-e+f=24-44+20=0}$$になりますでしょ。$${2}$$ではなく$${0}$$になりましたでしょ。このように、オイラーの多面体定理を学校で習ったとはいえ、「穴のあいた多面体」では成り立ちません。

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 もう少し単純なトーラスのセル分割を以下の絵のように考えますね。頂点が$${1}$$つ、辺が$${2}$$本、面は$${1}$$枚です。よろしかったでしょうか。これは$${v-e+f=1-2+1=0}$$です。たしかに$${0}$$になります。この「位相不変量であること(おおまかな形によらないこと)」の証明は、初等的には無理だとサーストンは言っていたわけです。

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 つぎのような、$${2}$$人乗りの浮き輪を考えてみましょう。これはまさにこういうことを考えていた修士課程の1年のときに、友達の家にお招きいただき、近くの海水浴場に行き、ほんとうに2人乗りの浮き輪を見たというのが実物を見た唯一の経験です。この場合、オイラー数は$${-2}$$になるのです。

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 ためしに、以下のようなセル分割を考えてみましょう。頂点が$${1}$$つで、辺は$${4}$$本、面は(八角形ですが)$${1}$$枚です。$${v-e+f=1-4+1=-2}$$ですね。どうも、ひとつ例を挙げただけではご納得いただけないと思いますが、それはサーストンの言う通り、電荷をベクトル場で動かすという専門的な証明しか私も読んだことはなく、サーストンが「初等的な証明はない」と言っているのですから、説明のしようがないのです。セル分割のちゃんとした定義もしていませんしね。ごめんなさいね。

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 $${g}$$人乗り浮き輪のことを、種数(しゅすう)$${g}$$の(閉)曲面と言います。2次元の(向き付け可能な)多様体は、すべて種数で分類されるという顕著な(びっくりするくらい顕著な)性質がありますが、顕著すぎて説明できません。そして、種数が$${g}$$の曲面のオイラー数は、じつは$${2-2g}$$なのです。高校でも習うオイラーの多面体定理は、球面のセル分割でした。つまり、$${g=0}$$であり、オイラー数はたしかに$${2}$$になります。トーラスは$${g=1}$$ですから、オイラー数は$${0}$$です。種数が$${2}$$であれば、オイラー数は$${-2}$$になるわけです。こうなっています。これも証明のしようはありません。かなり「修行」を積まないと、ここまでの認識には到達しません。でも、感覚的には理解できますでしょ?というつもりで、書いていますが、いかがでしょうか…。

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 (※)ここで少し新しい問題を出します。

 24枚の正五角形があり、ひとつの頂点に4枚ずつ集めるものとします。どういった図形ができるでしょうか。「そんなことはできないよー」とおっしゃらず、柔軟に考えてくださいね。

 さて、どうしましょうか。正三角形は1箇所に3枚ずつ集めると正四面体になりました。4枚ずつ集めると正八面体になりました。5枚ずつ集めると正二十面体になりました。6枚ずつ集めるとまったいらになりました(じつはトーラスになり得るのですが、あまり難しいことは言わないことにしますね)。7枚以上集めると、わけがわかりません。正方形は、1箇所に3枚ずつ集めると立方体になりました。4枚ずつ集めるとまったいらになりました。これもトーラスになり得ます。5枚以上集めるのはよくわかりません。正五角形は1箇所に3枚ずつ集めると正十二面体になりました。この問題では4枚ずつ集めることを言っています。そんなことはできるのでしょうか。

 これは、多くの人が「無理だ」とおっしゃいます。しかし、「柔軟に」考えるとできるのです。柔軟と言っても、正五角形を柔軟にするのです。ぐにゃぐにゃ曲がっていてもいいものとするのです。この問題はじつは小学生でも解ける人はいるのではないかと思っていますが、どうなのでしょうか。ちょっとだけ、オイラー数にヒントを得て、つぎのように考えたいと思います。

 正五角形は24枚ですね。それぞれに辺が$${5}$$本ありますから、バラバラにしたら辺の数は$${24\times 5=120}$$ですが、2つの辺が合体して1つの辺になりますので、辺の数は$${120 \div 2=60}$$で、$${60}$$本です。そして、辺がバラバラなら、1つの辺に2つの頂点がありますから、頂点は$${60 \times 2=120}$$個ありますが、これらが、4つが1つに集まるので、頂点は$${120 \div 4=30}$$個あります。オイラー数を計算してみましょう。$${v-e+f=30-60+24=-6}$$です。さきほど種数を$${g}$$としたらオイラー数は$${2-2g}$$だと申し上げました。つまり$${2-2g=-6}$$なのです。これを解いて、$${g=4}$$です。つまり、4人乗りの浮き輪の形だということがわかりました。これは大きなヒントです!

 それで、よく考えてみます。4人乗り浮き輪の上で、正五角形が1箇所に4枚ずつ集まっている絵をかきます。以下のようになると思います。色をつければよかったですが、私は色弱であることもあり、私自身が見づらいですので、黒の上から黒でかいたことをおゆるしください。4人乗りの浮き輪が、たくさんの五角形で分割されています。すべて、頂点には4枚ずつ集まっていることはよろしかったでしょうか。すべて五角形であることもよろしかったでしょうか。そして、見えている五角形は$${12}$$枚であり、向こう側にもう$${12}$$枚あるのもよろしかったでしょうか。つまり、正五角形の枚数は$${24}$$枚です。つまり、これが正解です!

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 最後の問題はなんだか蛇足みたいになりましたね。オイラー数を知らない小学生でもわかるかもしれないと思ったのですが、いかがでしたでしょうか。難しいですか?そうですね、これは、中学入試のような「難しさ」とはちょっと違いますね。私の感覚では、中学入試の難しさは、「難しい」というよりも「ややこしい」というのだと思っています。ですから、中学入試でいい成績だったからと言って、そのあと、いい大学に行けるとは限りませんよ。大学入試は、いい大学ほど、「ややこしい」のではなく「本質的に難しい」問題を出しますからね。そして、もっと専門になるとその傾向は顕著になります。そして、いい大学に入った人がいい人生が送れるかどうかもわかりません。私はこれ以上ないくらいのとてもいい大学に行きましたが、きのうで失業し、きょうから無職です。大変な生活が待っているので、その少しでも生活の足しになるように、算数・数学の個人指導の塾をやろうとしていまして、このような記事も書いております。よろしければ、以下の固定記事もお読みくだされば、と思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。この記事、少しでもおもしろかったら、遠慮なくスキを押してくださいね!


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