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適切な数

この算数・数学の記事は、だいぶ算数を忘れてしまったという大人のかたにもお読みいただけるように書きますね。どうぞお付き合いくださいませ。

小学校1年生で「数」を習いました。1、2、3、…です。足し算も引き算も習いました。かけ算も割り算も、分数や小数も習います。ここで「適切な数」の話をします。「人間の数(人数)」には「分数」や「小数」はありません。「1.7人」ということはないのです。統計を除きますね。ですから、「7人の人がいます。3部屋に均等に分かれて入ってもらいます。1部屋に何人入るでしょうか」ということを考えたとき「2人です。そして1人が余ります」ということになります。7÷3=2あまり1ですね。一方で「7メートルのリボンがあります。これを3本に均等に分けます。1本あたり何メートルになるでしょうか」と聞かれたとき普通は「2メートルです。そして1メートルが余ります」とは答えないわけです。これは$${7 \div 3=\frac{7}{3}}$$というふうになり、$${\frac{7}{3}=2\frac{1}{3}}$$メートルなのですね。「人数に分数や小数はない」のと対照的に、リボンの長さは細かく取れますので、このような計算が可能になります。いずれも「適切な数」があるということがおわかりいただけますでしょうか。少し専門用語を使いますと、人数は整数で、リボンの長さは実数なのです。

中学に入るとすぐに負の数を習います。マイナスの数です。ほとんどの教科書、およびネットに出ている教材が「ゼロより小さい数を負の数という」と何事もないかのように書いています。私は「最も小さい数がゼロなのではなかったか」と思う人がいるのではないかと思っていましたが、いました。中学に入ったときにこれを聞いて「裏切られた!」と思ったそうです。さて、中学1年の教科書で出す例もまず気温と海抜くらいであり、要するに「直線で表せるものは負の数まで用いて表すのがふさわしい」ということです。「面積」はマイナスになりません。また、「長さ」や「時間」も基本的には正の数で表されるものですから、「道のり÷時間=速さ」という小学校以来の式を使って負の数のかけ算、割り算を説明するときも、正確には「道のり(長さ)」ではなく「位置」を使い、「時間」ではなく「時刻」を使うわけです。少し難しい話が続きましたね。失礼いたしました。とにかく「$${2-6}$$」ができるようになるわけです。小学校では「小さい数から大きい数は引けません」と習いました。ところが、負の数を習ってみると「$${2-6=-4}$$」であることがわかったわけです。しかし、注意せねばならないことがあります。小学校のときになんで小さい数から大きい数が引けないと習ったのかと言いますと、それは2枚のせんべいから6枚のせんべいを食べることが不可能だったからです。8枚のせんべいから6枚のせんべいを食べると残りは2枚です。$${8-6=2}$$です。しかし、2枚のせんべいから6枚を食べることは不可能です。ここで注意せねばならないのは、負の数を習っても、相変わらず2枚のせんべいから6枚のせんべいを食べることは不可能だという事実です。ここでも「適切な数」があることがわかります。せんべいの枚数で負の数は不適切なのです。

よく「$${1+1=2}$$なのか?1つの雲と1つの雲がくっつくと、1つの雲になるぞ。$${1+1=1}$$ではないのか?」という話が出ます。多くの人がこの話に「おお」と思うらしいのは、多くの人の気持ちにヒットする内容なのでしょうね。少数派の私にはわからない感覚なのですが(たんに空気が読めないだけです)、これは「足し算」という概念に挑戦してきている話だと捉えることができます。「足し算」は、「雲と雲の合体」をも含む概念なのだろうか?雲と雲が合体せずに並置されていたら、やはり2つではないか。1つのりんごと1つのりんごが並置されれば、それは確かに2つのりんごであります。りんごとりんごがくっついて1つのりんごになるわけではありません。そのことを「足し算」と言っているわけではないからです。いま、私は、自分のこの論がどう多くの人に響くのかわからない状態で書いています。私は雲の話もピンと来ていません。まして、この「りんごの話」と「雲の話」の関係もわからないのです。(いや、数学的にははっきりしていますが、多くの人の「常識」にどのように捉えられるかが想像つかないのです。想像を絶するつまらない話だったらごめんなさいね。)

東大数理のあるベテランの先生がおっしゃっていました。「このあいだ、文系の学生を教えたんだけどね、『虚数って、ないんですよね?』って言うんだよね。そりゃ、あるよ(笑)」とのことでした。文系とはいえ東大生でも、「虚数は、ない」と思っている学生はいるのです。しかし、これも「適切な数」とでも言うべきものがあるわけでして、実数だけで考える場合、虚数は考えないことになることも多いです。それは、ここまでお読みくださった皆さんには、「整数以外を考えると不適切」「負の数を使うと不適切」という例をご覧になって、お感じになられたのではないかと思います。

最後に、次のような例を挙げます。わからなくてもいいです。「東へ3キロメートル進む」ことを「$${+3}$$キロメートル」というなら、「西へ2キロメートル進む」ことは「$${-2}$$キロメートル」と言うのではないか、ということは中学で負の数を習ってすぐに教わることです。では、「北へ5キロメートル進む」ことは数で表したらどうなるか?これは表しようがありません。しかし、もしも複素数を学んだ人なら「虚数単位を$${i}$$として、$${5i}$$キロメートル」とおっしゃるのではないかとちょっと思ったのです。実際には$${i}$$と$${-i}$$はどちらがどちらを指しているのかはっきりしておらず、このような書きかたはしないだろうとは思いますが、複素平面(複素数平面)を知っていると、どうしてもこういうふうに思ってしまうわけです。わからなくても結構ですが、「東へ3キロメートル進む」ことを「$${+3}$$キロメートル」というなら、「北へ5キロメートル進む」は数では表しようがないことだけ、ご理解いただきたかったのです。

というわけで、適切な数を用いることはとても重要です。なわとびを3.14回飛ぶこともなければ、勉強を$${-1}$$時間することもないのです。本日は以上です。つまらない話でしたらごめんなさいね!

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