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歴史小説家ひと月パリ滞在記 その2 パリ路線バスの旅

 第二子出産のとき、第一子5歳孫の幼稚園は夏休み中。それまで髪を長く伸ばしていたのだけれど、9月の新学期を前に短くしたいと申します。でも彼女の母親である、わが娘は産後すぐで外出できず、私に「バアバ、美容院に連れてってやってよ」とのたまう。
 娘のツレアイも日本人で、ゆえに孫娘は純正日本人。まっすぐな黒髪で、西洋人の美容師さんだと上手にカットできないので、韓国人の美容師さんがやっているパリ都心部のサロンに連れていかねばなりません。
 でも「子連れでメトロに乗ると、スリに遭うからね」と娘が脅かす。しかたないので孫娘とふたりで、路線バスで出かけることにしました。東京でだって、知らないバス路線に乗るときには、かなり緊張するってのに。
 娘婿どのに、私のスマホをパリでも使えるようにしてもらい、地図を見ながらバスに乗車。車内の文字表示版を、いちいち地図と照らし合わせ、「うむ、今はここだな」と停留所を確かめつつ、びくびくしながらエッフェル塔の近くまで参りました。
 バス停からは、ちょっと迷いましたが、無事に目的のサロンに到着。ただ予約時間よりも、かなり早く着いてしまったので、前のお客さんが、まだ終わっていませんでした。韓国人の美容師さんは、しきりにフランス語で何か言うのですが、私の英語は通じず。孫娘は本当はフランス語ペラペラなのに、5歳では知らない人には寡黙になってしまい、三すくみ状態。やむなく家にいる娘に電話をして、通訳してもらったところ「まだ、お客さんが終わらないので、待っててください」とのこと。うーむ、見ての通りのことでありました。
 ともあれ上手にカットしてもらって、またバスで帰路につきました。途中で大きな公園の脇を通ったときに、おしゃれな遊具が車窓から見えたので、孫娘に「ほら、見て見て、ステキな遊具があるよ」と指をさしたところ、孫娘は目を輝かせて「明日もバスに乗って、ここに遊びに来ようよ」と大はりきり。私は内心「余計なことを言ってしまった。また、この緊張バスに乗るのか」と、こめかみから、ひとすじの汗。
 それでも自己犠牲精神旺盛なバアちゃんは、翌朝、孫娘が食べたいというたまごサンドを作り、ふたたび路線バスの旅に出発。わざわざゆで卵を作って、みじん切りにして、マヨネであえて、パンに挟むなんて、面倒くさくて、今までに作ったことなかったのですけどね。バアちゃん、がんばりました。
 ただし目指す停留所で降りたつもりが、乗り過ごしてしまったのか、広大な公園の中で、おしゃれ遊具は見つからず。それでも、ほかの遊具で遊んでから、バアちゃんと孫娘はベンチに並び、ゴキゲンでたまごサンドを頬張り、持参の水筒のお水を飲んだのでありました。
 しばらくすると孫娘が「トイレに行きたい」と申します。でも公園の見取り図にはトイレの表示がありません。またもや娘に電話して「トイレどこよ?」と聞くと、パリの公園にはトイレはなくて、カフェで借りればいいとのこと。でも公園が広すぎて「近くにカフェなんかないわよ」と訴えると、そこらの繁みでさせよと申すのです。「えええッ?」と驚嘆する私に、娘は「大丈夫、うちの子、そこいらでできるから。みんな、そうしてるし」と平然。さすがナポレオン3世が都市整備するまで、汚物を窓から捨ててた国だと、私は妙に納得したのでありました。
 しかたなく孫娘に「ここいらで、どお?」と手近な繁みを示しましたが、「ううん、まだ大丈夫」と、けなげな返事。バアちゃんは、いつまで大丈夫なのか案じながら、トイレを探しておろおろ。すると孫娘が突然「カフェあった!」と、彼方を指さしたのです。おお、でかしたぞ、さすがフランス生まれ、フランス育ちの孫娘、事情がわかってる!と褒めちぎりつつ、カフェに突進。
 でも途中で別の不安が湧き、「ねえ、何か飲み物でも頼まないと、トイレ使えないんじゃないの?」と孫娘に聞いたのですが、そこまでは5歳児では関知しておらず、首を傾げるばかり。とにかくカフェに飛び込んで「この子にトイレ使わせていただけますか」と英語で丁寧に聞いたところ、カフェのオバちゃんは。ひと言「1ユーロ」と人差し指を立てました。なんてことはない、お金を払えば誰でも使えるのですね。事情がわからないと、余計な心配をせねばなりませぬ。
 ともかく孫娘が先にトイレに入り、バアちゃんも続いて用を足して、2人分で1ユーロなら悪くなかったかなと満足しつつ、手を洗っていたら、孫娘は、もういちどトイレに。そこで初めて気づきました。そーかー、大きい方だったのか。それじゃ、いくらなんでも外じゃ、できないよね。私の作ったたまごサンドが悪かったのかしらん。
 前回に続いて下ネタオチで恐縮です。それに、こんな話を書いて、孫娘が大きくなってから、万が一、読むようなことがあったら、怒るだろうなー。許せ、孫娘。
 結局、当初の目的だったおしゃれ遊具は、まったく顧みられませんでした。
 次の「ひと月パリ滞在記 その3 いよいよショッピングとランチ」に続く。

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