見出し画像

歴史小説家ひと月パリ滞在記 その4 名建築サヴォア邸見学

 娘の産後しばらくして、落ち着いたころの話。「コルビュジエが設計したサヴォア邸っていう家が、世界遺産になってるんだけど、みんなで車で行かない?」と、娘が誘ってくれました。なにせ私はショッピングにもグルメにも、たいして興味がなく、このままではパリに来た甲斐がないと、哀れんでくれたらしいのです。
 私は30代の終わりから40代の初めにかけて、建築とまちづくりの事務所で仕事をしていたことがあり、その経験もあって「帝国ホテル建築物語(PHP研究所刊)」を書きました。なので古い建物に興味はあるのですが、シンプルでスタイリッシュなコルビュジエの建物は、正直、ちょっと苦手でした。同じく世界三大建築家のフランク・ロイド・ライトの装飾性の方が好きだし。それにコルビュジエって、言いにくくて、いまだに、よく口がまわりませぬ。

今年1月発売の拙作「帝国ホテル建築物語」

 それでも娘婿どのが車を出してくれると言うので、娘夫婦と孫ふたりとともに、パリ郊外のサヴォア邸にGo! そこは確かに素敵な建物でした。けっこう不便な場所なのに見学者が絶えず、人気のほどもわかりました。モダニズム建築の意義も理解したつもりです。
 行ってみて気づいたのですが、サヴォア邸は私の母校に似ていました。静岡雙葉学園という女子校で、一階がピロティという吹き抜けの空間になっており、真っ白な建物の外壁にスロープがついているのも、サヴォア邸と同じ。はるか昔、私が中学1年に入学したときに本校舎が完成し、その後も工事が続いていたので、とても印象に残っています。駿府城の城跡にあり、お堀の水辺と駿府公園の緑に映える、美しい校舎でした。
 確か竹中工務店の施工で、おそらく設計者がサヴォア邸からヒントを得たのだと思います。中学入学から50数年も経って気づくとは、ちょっとした感動でした。同窓生たちも、自分たちの校舎がコルビュジエの影響を受けていたなんて、おそらく誰も知らないでしょう。その建物は耐震構造ではなかったので、残念ながら、近年、建て替えになってしまいましたが、ちゃんと記憶の中には残っています。
 邸内をひとめぐりして、娘夫婦と感想を話し合ったところ、私は「水道の蛇口と壁の色が好き」と言い、婿どのは照明器具に注目しており、娘は、また別のものを誉め、それぞれ見ているところが違うものだなと感心。

窓の外の緑もいい感じの水場
水道管が外に出ているのもよい感じ
手前の部屋は煉瓦色っぽい壁

 鮮やかな色合いの壁は、京都の「角屋もてなしの文化美術館」に似ている気がしました。こちらは偶然の一致だけれど、美を極めていくと、同じような結果につながるのかもしれません。京都とパリって、いろいろ共通点があるし。
 トップの写真はサボア邸にカメラを向ける5歳孫娘。ブルー系のリバティプリントのワンピースに、Gジャンを羽織り、足元は黒い革製ロングブーツ。ブーツは本人のたっての希望で、5歳の誕生日に買ったものだそうで、ワンピースもGジャンも本人が選んだコーデイネート。誰が教えたわけじゃないけれど、パリで育つとファッションセンスってものも育つんだなあと、大昔、まがりなりにもファッション雑誌の編集者だったバアちゃんは、感心しきりでありました。
 以上で、この夏の「ひと月パリ滞在記」は終わります。最後まで読んでいただいて、ありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?