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飲食の道の原点、弓道部

私が飲食の道へ進むことになった原点は、高校時代の部活動にあったのかもしれない、と思うことがある。

家庭科部ではない。

弓道部だ。

もしかしたら馴染みがない方もいるかもしれないが、弓道部というものはその多くが専用を道場を持っている。
授業が終われば道場へ走り、道着に着替え、神棚に礼をして、自分の弓矢を準備する。
各々素引き、巻藁と呼ばれるウォーミングアップを行い、射場に立ち、28m先の的に向かって矢を放つ。
仲間とフォームをチェックし合ったり、師範に見てもらったり、そんなことを繰り返していると、あっという間に日が暮れる。

私が所属していた部活は代々良い成績を残している弓道部で、練習は週7日あった。要するに毎日道場へ通っていた(後々問題になり、練習日程は減らされたが)。

それくらい部活をやっていると、部員は家族のような近さになるし、道場は第二の家のように馴染んでくる。
休憩時間には各々(こっそり)マンガやゲームを持ち込んでいたり、授業が休みの土日はカップラーメンを買ってきて一緒に食べたりしていた。

当時の私の趣味は、お菓子をつくることだった。

あるマンガに出てきた「フォンダンショコラ」なる食べ物を食べたくて自力でつくったことをきっかけに、食べたいものができたら自力でつくって食べる、というDIYを息抜きとしていた。

高校生男子の趣味がお菓子づくり。
今なら状況は異なるかもしれないが、当時はかなり「変わった奴」と悪目立ちしていた。

あるとき、そんな話を聞きつけた部員の一人が「食べたいからつくってきて」と言ってきたことがあった。

それまで家族以外の人間に食べさせたことはなかった。
それに、「オトメン〜」とバカにされるのも御免だった。
が、仲間の部員になら不思議と「まあ、つくってもいいか」と思えた。
喧嘩もするし嫌なところも沢山知っているけれど、私を否定するようなことは無いという信頼があった。

部活帰りに材料を買って、家でつくって、翌日、ちょっと緊張しながら道場へ持って行った。

今となっては何をつくったのか覚えていないが、味も見た目もそんなに素晴らしいものではなかったと思う。
それでも、食べた仲間があまりにも「すごい」とか「おいしい」とか言ってくれるので、なんだか嬉しくなってしまった。

自分のつくったもので人が喜んでくれる。
その喜びを知ったのは、この時だったと思う。

それから、お菓子づくりが趣味の先輩や同輩と一緒になって、ちょくちょくお菓子をつくっては持ち寄るようになった。
時には失敗してゴミ箱に投げ捨てたりしたこともあったけど、卒業までつくり続けた。

そのときの仲間には、今でもたまに「お菓子つくって」と言ってもらえる。


卒業して、就職して、転職して、つくるものはお菓子から料理に変わったり、コーヒーに変わったりしているけれど、あの時の「おいしい」は、ずっと原動力になっている。かもしれない。


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