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都営まるごと切符

私の最寄駅は都営線である。

東京の人にしか分からないと思うが、都営線は高い。
高いし路線は少ないし終電が早い。
メトロやJRユーザーは都営線に乗ることはなるべく避けるだろう。

そんな都営線には一日乗車券的なものがある。

都営地下鉄乗り放題の「都営地下鉄ワンデーパス」(500円)、
そして「都営まるごと切符」と呼ばれる都営地下鉄と都営バスが乗り放題のもの(700円)。

先述したとおり都営線は高い。最低でも178円。
メトロだったら168円、JRだったら136円とかのところ、178円する。

しかも、気づいたら272円とかになってる。
目を話した隙に272円になってる。
いつから272円になってるのかはいつも分からない。
東京七不思議のひとつとも言われてる。たしか。

私は土日満喫したいタイプなので、動き方によっては「都営まるごと切符」を買った方が安くなる場合がある。
ただし「都営まるごと切符」ではメトロやJRは乗れない。

これがよくよく私の頭を悩ませる。

例えばある日。
家から最寄駅までは歩くと15分ほどかかるが、すぐ近くのバス停からバスに乗ると5分で着く。


「都営まるごと切符」を買おうと決めて家を出た日は絶対にバスに乗って駅に行きたい。


バスに乗って運転手さんに「都営まるごと切符ください」と告げるも、財布に現金がない。
「都営まるごと切符」は現金でないと買えないというウィークポイントがある。

その時の私は知らなかったので、「Suicaで買えませんか?」と尋ねたけど、運転手さんはものすごくイライラした様子で「無理ですね。ハイ。現金ないですか?」と捲し立てる。
私は泣きそうになりながら「すいません、ないので普通にSuicaで」とスマホをかざす。

こんなことなら15分歩けばよかった。
たった5分だけバスに揺られながらものすごく後悔に苛まれた。
結局駅に着いても現金でしか買えないと言われて、その日はしっかり1000円くらい都営交通に落とした。


またある日は、久しぶりに一人で満喫できるお休みで、特に予定も考えずに「都営まるごと切符」を買ってしまった。

とりあえず飯田橋に行った。飯田橋に行けばなんかありそうだと思った。
特になかった。

次に春日へ行った。
東京ドームシティがある。

降りてみて気づいたけどひとりを満喫したい日に行きたい場所ではなかった。
家族とかカップルとかJKが楽しげにしているのを横目に早歩きで東京ドームシティを通り抜けて都営線に戻った。


電車に乗るとものすごく安心したけど、ここら辺でさすがに、元を取りに行くために必死になっている自分に気付く。


神保町に向かうことにした。
なんとなく大好きな街だ。
向かうことにしながら計算した。
最寄駅から飯田橋まで、飯田橋から春日へ、春日から神保町へ。

全然700円に辿りつかない。700円が遠い。700円という名の目的地が遠すぎる。

一瞬で神保町に着いて、一瞬で着いてるんじゃないよと思った。
完全に「都営まるごと切符」に翻弄されている。


神保町で、ずっと欲しかったせきしろさんと又吉直樹の「カキフライがなかったら来なかった」を買った。長濱ねるさんの帯がついていて、今買えて良かったなぁと思ったけど、別に新品なので神保町の本屋で買う意味もよく分からなかった。

しかしそういう意味とかを求めてる場合ではない。この日の私のゴールは完全に「都営まるごと切符」の700円の元を取ることになっている。

古本はあまり得意じゃないしカレーの気分でもないなと思ってまたすぐに神保町駅に戻った。

ふと思い立って、神楽坂に行くことにした。
神楽坂には昔好きだったケーキ屋さんがある。
ケーキ屋さんでケーキを食べてエモい気分にでもなろうと思った。


しかもこれで700円に到達する。到達するのだ。


エモい気分にもなれて本も手に入れて、これは完全に元を取れるぞと自分に言い聞かせながらケーキ屋さんに行ったら、3つしかないテーブルが満席。


店の奥からおばちゃんが出てきて、「すいませんね〜テイクアウトなら…」と言われた。
たまたま立ち寄っただけですよ感を出して、あ、じゃあ大丈夫です〜と言いながら「都営まるごと切符」のことを思って泣きそうになった。

結局何の思い入れもないカフェに入って買ったばかりの本を読み、全然集中できないまま20分くらいで店を出た。


まあなんとか700円には辿り着いたしなと思いつつ帰りの電車に揺られながら気付いた。

バス乗ってないから「都営地下鉄ワンデーパス(500円)」買えば良かったんじゃね?と。

もう2度と買わないと思った。

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