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『東京マラソン』の一般参加が中止なのに「返金」されない理由はなぜか?

こんにちは。佐藤奨(さとうつとむ)です。

昨日、3月1日に開催される『東京マラソン』の一般参加が中止となり、エリート選手のみで実施することが発表された。中国武漢により発生したウイルス性の伝染病がその要因である。

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(東京マラソン ウェブサイトより)

今、まさに、私も4月に東京にて実施する子供向けの屋外イベントの「開催可否」を検討している段階であり、『東京マラソン』とは、規模は違えど、毎回イベント時には、20を超える都道府県や、タイや香港、中国、韓国、台湾などからもファミリーが来場し、数千〜1万名規模の参加者を集めるイベントとなるため、同じ屋外イベントである『東京マラソン』が、今回、どのような判断をするのか。試金石として注視していた。

ちなみに、私が主催するイベントのウェブサイトでは以下の記載をしている。

当イベントは、屋外のイベントではございますが、メインとなるレースの他に、試乗やワークショップなど様々な「体験型」コンテンツを実施しています。そのため、お子様などの参加者様が、様々なものに触れ、接触が起こりやすい特徴がございます。参加する中心の来場者がお子様であるということも、特に考慮し、開催可否を判断したいと考えております。

苦渋の決断という言葉があるが、イベントを主催する責任者として、こうした状況における開催可否の判断は、まさに苦渋である。でも、この決断からは逃れられない。近日中の判断に迫られている、まさに今の私の胸中をここに記しておきたい。

『東京マラソン』一般参加が中止でも「返金なし」

さて、本日の記事のテーマだが、『東京マラソン』の一般参加が中止となったが、参加予定者への措置内容にて、来年の出走権を与えるものの、「返金なし」となっていることが話題となっている。

1 措置内容
 今回限りの措置として、翌年の東京マラソン2021に出走することを可能とします。
 東京マラソン2021にエントリーする場合には、別途参加料の入金が必要となります。
東京マラソン2020の参加料及びチャリティ寄付金は返金いたしません(募集要項のエントリー規約に基づきます)。
東京マラソン2020シグネチャーTシャツ購入者には、2020大会終了後Tシャツを発送いたします。
(東京マラソンウェブサイトより)

こうしたマラソンなどスポーツの大会の興行イベントの中止の場合「返金なし」がスタンダードとなっているのだが、どうして返金しないのだ、という声が、SNSなどから多数あがっている。

どうしてこのような対応になるのか。その件を、あくまで私見であるが、同じくイベントを主催する人間として、掘り下げてみたいと思う。

現段階までで、すでにあらゆる「経費」がかかっている

今の、2週間前の時点だと、準備予算や運営会社への発注、また事務局の運営で、既にあらゆる資金を使っていると推察される。

準備予算や運営会社への発注、また事務局の運営とは何か。

それは、大会のポスターや、パンフレット作成、当日の運営スタッフとの打ち合わせ、放送局とのすり合わせ、コース設計、スポンサー営業や、確定後の露出箇所のすり合わせ、選手の受付業務一式、出走者への告知業務やそれらを一括するシステムの外注等々。あげたらキリがないが、2週間前の段階ではこれらの運営に必要な業務が済んでいなければ、当日の運営は間に合わないだろう。

もし、ここまでやって返金対応になると、数万人のランナーへの返金手数料 & 返金対応となり、とんでもない額の大赤字が出る。すでに、準備に向けて、人件費も含めて多くの資金をつかっている状況のため、そこでできる「赤字補填」ができないから「返金なし」の対応となったものと推察される。

返金して、とんでもない大赤字となった場合、どこがその「資金」を補填するのか?これは、あくまでも仮説だが、本イベントを主催する東京マラソン財団、および、その財団の運営を「資金面」で支える東京都になるだろう。

東京マラソンの収益は、そのほとんどがスポンサー収入が占めている状況であるが、もし、参加者への返金となった場合は、数億円以上の赤字になることは間違いがないだろう。

ちなみに東京マラソンの財務状況については、東京マラソン財団のウェブサイトに開示されているので、詳しく知りたい方はそちらをご覧いただきたい。

大会のエントリー規約に載っていること

まず東京マラソンには、以下のエントリー規約がある。

13. 積雪、大雨による増水、強風による建物等の損壊の発生、落雷や竜巻、コース周辺の建物から火災発生等によりコースが通行不能になった結果の中止の場合、関係当局より中止要請を受けた場合、日本国内における地震による中止の場合、Jアラート発令による中止の場合(戦争・テロを除く)は、参加料のみ返金いたします。なお、それ以外の大会中止の場合、返金はいたしません。
(東京マラソン2020大会要項より)

いわゆる、天変地異や、災害の影響での中止は、返金するが、それ以外の大会中止の場合、返金はしない、という規約であり、返金できるケースと、返金できないケースがあるということを規約に記載している。

主催者は「興行中止保険」に加入しているはず、でも...

返金できるケースとは何か。それは、これほどの規模の大会なら、主催者が「興行中止保険」に加入し、不測の事態に備えている。中止の場合は、その保険を適用し、参加者に返金対応の場合の原資を、「興行中止保険」から出る保険金から賄うことになる。

それでも、どうして今回「返金なし」となったのか。その理由は、今回は、この中止が、その「興行中止保険」の適用外となり、返金できないケースになったと考えられる。

まさに、主催側の想定の範囲外、または、加入している保険会社として、保険の適用外の事態と考えられる。保険会社としても、解釈が分かれる部分があるだろうが、いずれにしても、「興行中止保険」でカバーできる範囲外の、不測の事態が起こったことで保険が適用されず、「返金なし」との対応となったのではないだろうか。

東京マラソンの規約の最後の記載部分”なお、それ以外の大会中止の場合、返金はいたしません”の「それ以外」となってしまった。

「興行中止保険」には、さまざまな解釈ポイントがあるが、今回のように、エリートは大会を実施し、一般は中止となる場合では、保険で適用できるケースがなかったのではないだろうか。

これは、あくまで外野からの「想定」の話ではあるが、保険はかけていても、保険会社との握りで、今回「不可抗力条項」に入るのか、つまり、保険会社として、保険でカバーできる範囲内なのか?は、中止の発表の前段階にすり合わせられた可能性が高く、それで「保険の範囲外」との判断をされて、今回のような「返金なし」との発表となったと推察される。

まとめ

まとめると、現段階までに、すでにあらゆる「経費」がかかっている。こうした大規模大会では、大会運営にかかる経費が先に出て行くため、大会主催者は、エントリーの段階で中止の場合の返金の対応方法の規約を定め、条件によって、返金するとの記載がある。返金の記載もあるということは、中止の場合に備え「興行中止保険」に加入していると推察される。

でも、今回の事態では、保険の適用外であったことと、2週間前までの段階で、すでにたくさんの支出をしているため、参加者への返金対応ができなかったと推察される。

ただ、繰り返すが、こうしたマラソンなどスポーツの大会の興行イベントの中止の場合「返金なし」がスタンダードな対応となっているため、こうした不測の事態でも返金するという前例ができてしまうと、他の大会主催者がリスクを負いにくくなる可能性もある。この背景から考えると、今回は、返金なしの対応が妥当なのではないか。

以上が、『東京マラソン』の一般参加が中止なのに「返金」されない理由と考えている。

追記 公式から「東京マラソン」の参加料の仕組みの案内

東京マラソンの公式サイトから、2月19日に「東京マラソン」の参加料の仕組みについての案内が出た。

詳細
http://www.tokyo42195.org/common/pdf/200218_entryfee.pdf

これを読む限り、私の推察の通りの内容であった。

ポイントは2つある。

1つ目はすでに多くの予算がかかっているという点。

参加ランナー、一人当たりに換算すると約54,800円(2018大会定員)の費用となり、この費用のうち多くの部分は準備段階で必要となるものです。

と記載されおり、さらに、これらの経費については、開催に向けた1年間の準備にかかるものも含め、多くの部分が大会開催直前の段階で、履行や制作済である、もしくは発注や手配済みのものです。との記載がある。

つまり、1人あたりのエントリー費用、フルマラソンの参加料は国内ランナーが1万6200円、海外ランナーは1万8200円を大幅に超える約54,800円が予算としてかかっているとの記載であり、履行や制作済である、もしくは発注や手配済み。そりゃ返金できないわ。。

2つ目。興行中止保険について

なお、東京マラソン2020 からは、参加料返金保険に加入し、一定の要件に合致する場合には、参加料を返金できるよう対応しております。

つまり、興行中止保険には加入していた。しかしながら、一定の要件に合致する場合には返金できるが、返金できなかった今回は要件に満たなかったということが分かる。

この記事での推察の通りの結果であったが、正解か間違いかを指摘することが私の本意ではない。私が伝えたいことは、今回の件によって興行主へ、不測の事態が起きたときは、「返金すべき」という圧力がかかりにくくなることを願いたい。

そして、参加者は、大会のエントリー時の規約にも記載され、それに同意した上でのエントリーで、それに沿っての「返金なし」の対応なのだから、ぜひお手柔らかに、というのが私の想いである。

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