ネット上の意見に振り回されないための武器
SNSなどを見ていると、本当に多種多様な意見を目にする。
最近は特に、新型コロナウイルスの関連で、「感染防止の対策」や「政府の経済対策」などに、様々な意見や批判が書き込まれているように思う。それらを目にすると、「一体どれが正しいのか?」とわけが分からなくなってしまう人も多いのではないだろうか。
様々にある主張のどれが正しいか、というのは、なかなか言い切れるものではない。なぜなら、各々の主張の前提が違ったり、根拠の考え方が違うからだ。
とは言え、主張の中には「なんだか自分の考えと違うような気がする」と感じるものも多いと思う。そんなときに「どこが、どう、違うのか」が分かったらどうだろう?きっと、少なくても気持ちはスッキリするはずだ。
前置きが長くなったけど、この記事では「トゥールミンモデル」という論証、説明のやり方を紹介したい。参考にしたのは『誰も教えてくれない 考えるスキル』(芝本秀徳 著)という本だ。
三段論法の欠陥
早速トゥルーミンモデルの説明と行きたいところだけど、その前に、一般的な「三段論法」について説明させてほしい。知っている人も多いと思うけど、次のような説明パターンだ。
この三段論法、ロジカルシンキングとしてはとてもメジャーなものの、厳密な議論をする場合、致命的な欠陥があると言われている。それは「大前提」は簡単に崩れる場合が多い、ということだ。
例えば、こういう三段論法はどうだろう。
一見すると正しいように見えるけど、この結論が正しいとすれば、大前提である「すべての白鳥は白い」ということを予め証明しておかなければならない。しかし、世界には黒い白鳥がいることは有名であり、これは正しくないことが分かる。つまり、大前提は100%正しいものでないといけないのだけど、この世の中で100%正しいといい切れるものはほとんどない。だから、いくらでもツッコミができる。これが、三段論法は厳密な論証には不向きだと言われる理由だ。
トゥールミンモデルの基礎
いよいよトゥールミンモデルの紹介だ。トゥルーミンモデルは、イギリスの哲学者、スティーブン・トゥールミンが提唱した、論証の考え方だ。トゥルーミンモデルは6つの要素からなる。そのうち、まずは中心となる3つを紹介する。
◆トゥルーミンモデルの中心となる3つの要素
Data(データ):主張の拠り所となる事実
Warrant(ワラント、論拠):データと主張をつなぐ理由付け、解釈
Claim(クレーム、主張):主張したいこと
図にするとこんな感じだ。
ポイントは、論拠を明確にする、ということだ。『誰も教えてくれない 考えるスキル』にはこう書いてある。
データと主張と論拠の3つを明確に分けることが重要だとトゥルーミンは言っているわけです。相手に物事が伝わらない人というのは、主張だけで話すか、データと主張だけで話すかをしている場合です。論拠がないと伝わらないということです。
実は、この考え方はコンサル業界ではよく使われている。いわゆる、「空・雨・傘」というやつだ。
◆空・雨・傘
空:西の空が曇ってきている → データ
雨:雨が降るかも知れない → 解釈
傘:傘を持って行ったほうがいい → 主張
ここで紹介した、データ、論拠、主張の3点セットを明確にする、ということを意識するだけでも、いろんな人の主張に対し、正しいとは言えないことや、自分がどこにスッキリしていないかが見えてくると思う。
トゥールミンモデルの完全版
しかしこのトゥールミンモデルはまだ3つの要素が残っている。それも加えた、完全版が次のものだ。
◆トゥルーミンモデルの6つの要素
Data(データ):主張の拠り所となる事実
Warrant(論拠):データと主張をつなぐ理由付け、解釈
Claim(主張):主張したいこと
Backing(裏付け):論拠の裏付け
Qualifier(限定詞):主張がどの程度言えそうなのかという情報
Reservation(例外、反駁):主張が成立しない場合の提示
ここで、Backingは論拠の正しさを説明するための情報。Qualifier(クオリファイアーと読む)というのは、要は主張が「ほぼ間違いない」とか「99%正しい」といった、主張がどの程度正しそうなのかを補足するものだ。最後に、Reservation(リサベーション)は主張が整理しない場合への補足で、「ただし○○の場合は除く」といったものだ。
こちらも図にするとこんな感じだろう。
先程の、空・雨・傘で書くとこうなるだろう。
◆空・雨・傘
Data:西の空が曇ってきている
Warrant:雨が降るかも知れない
Backing:雲は西から東へと移ってくるから
Qualifier:半分以上の確率で
Reservation:外出時に屋外を歩くことが全く無い、ということが無い限り
Claim:傘を持って行ったほうがいい
こうやって見ると、SNS等で流れる主張のほとんどは、トゥールミンモデルの要素を満たしていないことが分かる。もっと言えば、テレビの討論番組なんかで話していることも、おおよそ同じだ。もしあなたが、誰かの主張に違和感を感じたなら、きっとこれらの要素を満たしていない可能性が高い。だから、まず、これらの要素がどうなっているかをちゃんと確認していくことが大切だ。そしてその反対に、あなたが何かの意見を言いたければ、これらの要素が少しでも説明できるようにしておいた方がいい、とも言える。
まずは、意識すること
トゥールミンモデルを初めて聞いた、という人も多いと思う。読んでいて難しそう…と感じた人もいるかも知れない。だけど、「空・雨・傘」でも紹介したとおり、コンサルティングファームでも一般的に使われていたり、ディベートでも徹底的に学ぶ考え方なので、知っていて絶対に損はないと思っている。
様々な意見がネット上で混じり合うこんなタイミングだからこそ、誤った情報に振り回されることを避け、余計な議論から身を守るために、トゥールミンモデルを少しでも意識してみてはどうだろうか。
もしサポートいただけましたら、妻に甘いものでもプレゼントして、それをまた記事にしたいと思います。