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リアル

 新しくヘッドフォンを買った。

 64,800円した。

 世界初の機能が搭載されているから、高い。

 売り文句は、

 ありとあらゆるものにリアリティを!

 初めは音楽を聴いた。

 耳が飛んでいきそうなくらいの、

 大音量で聴いた。

 目をつむればそこは、

 レコーディングスタジオだった。

 ライブハウスにいるような臨場感を味わえると思っていたから、

 拍子抜けだった。しかし。

 推しのドラムがミスをした時の、

 十代の少年にぴったりの可愛い笑い顔!

 ライブよりよっぽど良かった。

 次は映画を観た。

 俳優と同じ空気を吸っているような気がした。

 目をつむればそこは、

 ちゃんと撮影現場だった。

 エディタールームとかじゃなくて、安堵した。

 好きな映画監督の隣、

 席が空いていたので座った。

 彼のひげもじゃの横顔を眺めていると、

 助監督らしき男がやってきて、

 わたしは追い払われてしまった。

 焦って立ち上がった拍子に、

 画面にぶつかって倒してしまった。

 そこで目が覚めた。

 手に汗握るリアルな体験なのは確かだった。

 翌日、

 郵便受けに、

 倒して壊した画面の請求書が入っていたときは、

 さすがに腹を抱えて笑った。

 そのリアルさは、求めてない。

 ちなみに、

 570,000円だった。

 いくらなんでも金のかかりすぎるヘッドフォンだ。

Kise Iruka text 105;
Reality.

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