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幻想へ

 記憶の中の花をかいでみる。

 麗しい髪が風にながれている。

 君の背だけが、はっきりと夕焼けに浮かび上がる。

 あぁ、そのままで、振り向かないで欲しい。

 夢の中のあやふやさは、

 たゆたいのように不均一でいい。

 可能性に溢れた領域こそが、

 わたしには美しいと思える。

 おぼろげなシルエットに、

 夕焼けがまわり込んだオレンジの輪郭。

 溶けてゆく夏のうだる暑さに、

 蜃気楼、君を幻想に奪ってゆく。


 時間は流れるままに流れてゆく。

 記憶のボックスに詰め込まれてゆく。

 そこでは、いろいろなものが混ぜこぜになり、

 どこにも存在し得ない美しい怪物ができあがる。


 まっすぐに立っている背を眺める。

 ゆったり下りる髪の流れを梳く。

 記憶の風が吹いてきて、

 やはり、君らしき粘土細工を、

 めちゃくちゃに崩して、

 さらってゆく。

KISE Iruka text 128;
to Fantasia.

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