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少女

 少女の霊がでる。

 黒猫と共にでる。

 軒先に腰を下ろし、

 通りを眺めている。

 陽がよく照った冬の日に、決まってでる。

 彼女の半径五メートル、

 冬枯れた樹木が緑をたたえ、

 木漏れ日を投げかける。

 そこは春。

 そしてわたしは、ぶ厚い冬の装い。


 時空間がゆがんでいる。

 彼女はミッドセンチュリーの子ども服。

 赤毛の三つ編み、おさげは二本。

 肩の動きに合わせて揺れる。

 ゆがんだ時空間から、

 あたたかい春の風が吹いてくる。


 深呼吸する。

 鼻歌が耳につく。

 名も知らぬジャズ・スタンダード。

 待ち人へ贈る歌。

「ただ、待つということがどれほど幸福なのか」

 誰も応えない。

「わたしには、そんな豊かな時間があったのか」

 近況を思い返す。

 満杯の生活。

 どこに「待つ」ことの余裕があるだろう。


 古き良き少女は、まだ通りを眺めている。

 きっと何時間だって待てる。

 来る日も来る日も待つ。


 すこし座る。

 コンクリートの地面はひんやりしている。

 ひとつ向こうの大通りから聞こえる、

 車どおり、人の吐息。

 なにをそう、急くことがあるだろう。

 わたしは、わたしに云う。

 なにをそう、飽くことがあるだろう。

 わたしは、だれかに云う。

 少女の霊がでる。

 少女と共にでる。

 黒いおさげをなびかせて、

 通りを眺めている。

Kise Iruka text 125;
Ghost Girl.

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